アジア予選一回戦を、イナズマジャパンは無事勝ち抜いた。ディフェンスの強固なチームで、先取点を入れられたときははらはらしたけれど、最後は二対一で見事な勝利を収めたのだ。

リカちゃんと塔子ちゃんも試合を見届けると地元へ帰ってしまって、すこしだけ寂しい思いをしていた私だったけど、そこに一通のメールがやってきた。
差出人は源田くん。内容はよくわからないけど、ある場所へ来てほしいとのことだった。

太陽が天辺を通り過ぎたまだまだ暑い時刻。とりあえず帽子を被り、財布だけを持って家を出た。


「うわっ!」
「あ、」


ぼんやりとしながら歩いていたからだろうか、後もう少しで駅だというところで何かとぶつかって地面に尻餅を着いた。
慌てて起き上がって前を向くと、そこには私よりも小柄な男の子が転がっていた。


「ご、ごめんなさいっ!大丈夫?怪我はない?!」
「大丈夫です。それに俺が前を見てなかったんですから」
「ううん、私もぼんやりしてたから……本当にごめんね」


転ばしてしまった彼の体を起こし、その服についてしまった汚れをはらっていると、ふとあることに気づいた。


「あれ…………このジャージってイナズマジャパンの、」
「あ、俺イナズマジャパンの宇都宮虎丸って言います!」
「虎丸君ね。……あ、ここ擦りむいてる」


腕まくりされたジャージからはみ出る肘に、小さく血が滲んでいた。
慌てて鞄を漁る。絆創膏を探そうとして、今日の荷物は身軽だったことを思い出し、ハンカチを取り出した。


「大事な体なのに、本当にごめんね。これでよければ使って」


指し出すと、遠慮がちにだが受け取ってくれた。
ここで時計に目をやると、あともうすこしでバスの時間だ。


「ごめんなさい、私もう行かないと。ハンカチは帰さなくていいから!」
「え、あの……は、ハンカチありがとうございます!」


バス停に向かって走り出した私に向かって、深々と頭を下げた虎丸君。スポーツをやっているせいか、すごく礼儀正しい子だ。
今度時間のあるときに、お詫びを兼ねた差し入れを持っていこうと心に決めた。







メールで教えられた場所と目の前の建物を見比べる。
ーーおひさま園。
名前も、降りるバス停も間違えない。つまり源田くんに指定された場所はここであっているはずなのだが、いまいち要領を得ない。


「あの、すみません」


保育施設なのだろうか、園庭ではたくさんの子供たちが楽しそうに遊んでいる。


「だれかいませんか?」


私をここへ呼び出した源田くんの姿はない。
呼びかけに答えてくれる人もなく、だけど場所は間違ってないのでこのまま帰るのも忍びない。
とりあえず携帯の画面を開いたそのとき、誰かが後ろから服の裾を引いた。


「おねえちゃんを探してるの?」
「え、」
「おねえちゃんなら裏のグラウンドにいるよ。おにいちゃんたちにサッカー教えてるんだって」
「サッカー……?」


先ほどまでブランコに揺られていた女の子がそう私に教えてくれた。
彼女のいうおねえちゃんが誰かは分からないが、そこでサッカーをしているのなら、源田くんがそこにいる可能性は高いだろう。
ありがとうと告げると、彼女ははにかんだ笑顔を見せ、またブランコへと帰っていった。

女の子の言うグラウンドへは建物の横を抜けて行けた。
そこには源田くんと、想像もしていなかった人物がいた。


「瞳子、監督…………ですか?」
「よこうちさん、久しぶりね。来てくれて嬉しいわ」
「あの私、源田くんに言われて来たんですけど……ここは?」


グラウンドでは源田くん以外にも何人かがサッカーの練習に励んでいる。
その中には知ってる人も知らない人もいる。


「私達はネオジャパン。イナズマジャパンに挑戦します!」


どこか楽しそうに言った瞳子監督の目は、前に会ったときよりもきらきらと輝いていた。

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