選考試合のあった次の日、学校に着いてまずはじめに驚いたのは一年校舎の様変わりだ。数日前まで校舎だったものが、立派な代表選手の宿舎になってると聞けば誰だって驚くだろう。
土曜日に作業を手伝わされた人間はなるほどと納得した顔をしているが、そうでない人間は魔法でも見たかのようになっている。

そして日本代表に選ばれたサッカー部の皆は、特例として一足先に夏期休暇となるらしい。国の代表として頑張ってほしいとのことだろう。
秋ちゃんたちマネージャーもイナズマジャパンの専属マネージャーとして、彼らに同行するらしく、今日の学校には姿を現していない。

一方私といえば、残念ながら代表落ちしてしまった染岡くんとマックスに挟まれて、すこし遅れた昼食をとっている。


「ま、さすがの僕でも世界の壁は分厚かったってことだよね」


焼きそばパンを齧りながら得意気に言ったマックスに、染岡くんの手がのびる。

代表に落ちたとはいえ、その代表候補に選ばれるだけでも本当はすごいのだ。おまけにマックスはサッカーをはじめて間もない。いろんなスポーツをやっていたとは聞いていたけど、こうして彼の活躍を思い浮かべていくと器用なんて言葉じゃ片付けられそうにない。


「染岡ったら叩くことないだろ」
「へらへらしやがって……俺はまだ諦めてねえからな!」


そんなマックスに対して、まだ闘志を燃やし続ける染岡くん。聞けばFFIには途中で代表のメンバーを入れ替えることの出来るルールがあるらしい。つまり選考試合で選ばれなかったといえ、日本代表になれる可能性はまだまだあるのだ。


「俺は必ず日本代表になってやる!」
「うん、頑張ってね。応援してる」
「そういえばみきの彼氏も代表落ちしたけど、今どうしてるの?」


空気をあえて読まないマックスの発言に、私はパンを喉に詰まらし、染岡くんは飲んでいた牛乳を吹き出した。
マックスは二人とも仲良いねえなんて呑気に呟いているが、それどころじゃない。


「よこうちに彼氏なんていたのか?!」
「いないって!マックスもからかうのやめてよ……」
「えー、佐久間とまだくっついてなかったの?佐久間って意外と奥手なんだね」
「マックス!」


マックスの口から飛び出た人物の名前に、思わず強い口調で叫んでしまった。
すぐに謝罪するが、マックスと染岡くんはぽかんとした顔でこちらを見ている。


「みきったらどうしたのさ。佐久間と喧嘩でもした?」
「喧嘩……は、してない」


マックスが心配そうに私の顔を覗き込んできたが、私はその視線に耐えられなくて目を逸らした。


「どうせ言うならもっと面白い冗談でも言えってことだよ」
「ちょっと、なら染岡がお手本見せてよね。僕、これでも染岡よりは自信あるよ」


 気を使って二人は話題を変えてくれたが、かえってそれが申し訳ない。
 
 ポケットの中に入ったままの携帯を、スカートの上からきつく握り締める。
 選考試合の後、次郎くんから来たメールにはしばらく会えないと書いていた。まだ代表を諦めたわけではない次郎くんは、これからより一層厳しいトレーニングに励むらしい。だからメールも控えると。

 それを見て私はすごく寂しくなった。
 次郎くんが代表を目指すというならもちろん応援するし、私に出来ることならなんだってする。なのにこう言われてはそれを拒否されたようでもある。
 次郎くんは多分私に迷惑をかけまいとそう言ったのだろうけど、迷惑なんていくらでもかけてくれていいのに。

 私のことを好きだと言ってくれるなら尚更、もっと私を頼ってほしいのだ。

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