日本代表の一員に選ばれてから、俺たちは外の世界と関わることが増えた。自分とヒロト。他にもたくさんの仲間たちーー皆、共に幼い頃からお日さま園で暮らしてきた仲間だ。
辛いこともあったけど、お日さま園での毎日は楽しかった。皆がいて、姉さんがいて、そしてなによりも大切な父さんがいた。俺たちのことを惜しみなく愛してくれていた。大好きなサッカーに会えたのもお日さま園のおかげだ。
ただ、そこはどうしようもなく狭かった。

あの時の自分は、父さんの願いの為、全国の学校を破壊して多くの人を傷つけたとしてもそれで構わなかった。迷うことも悩むこともあったが、止めようとは思わなかった。
父さんが認めてくれるなら。父さんが愛してくれるなら。それが全てだった。

全てが終わり、父さんが逮捕され、自分たちも保護された。その時感じたのは安堵だった。父さんが逮捕されたのはもちろん悲しいが、それ以上にあの人がもう罪を犯すことがなくなるし、大好きなサッカーで人を傷つけることがなくなったのが嬉しかったのだ。
俺たちの壊した学校や、傷つけた人たちがどうなったか、考える余裕はなかった。

更に日本代表に選ばれてからは実力の無さを痛感させられることもあったが、とにかく毎日が楽しかった。自分を選んでくれた監督には感謝してもし足りない。




「よろしくね、緑川くん」


そのことを改めて自覚させられたのは、一人の女子と出会ったときだ。
ーーよこうちみき。
円堂たちと同じ雷門中の生徒である彼女は、屈託ない笑みでそう言った。

前日のネオジャパンとの試合後、砂木沼さんかその名前を耳にした。練習を手伝ってくれた人がいると。
それ以外にも雷門のメンバーはよくその名を口にしていたせいで、初対面だというのに耳馴染みが良い。それになぜだろう、彼女には既視感のようなものすら覚える。


「ねえ、もしかして私と緑川くんってどこかで会ったことある?」


まるで心を読まれたみたいだった。
驚いてみきに向き直ると、彼女も不思議そうに首を傾げていた。


「変なこと言ってごめんね。でも、どうしてかそんな気がしちゃって……」
「試合の応援に来てたんなら、それでじゃない?」
「うーん……そういうのじゃないの。なんか、違う」


道ででもすれ違ったんじゃない?特に深く考えることなくそう言おうとしたが、視界の端にちらりと風丸の姿が映ったことで止まる。
一瞬何かを言いかけて躊躇う、その様子。言葉なくとも十分だった。

みきは俺を知っている。エイリア学園のレーゼを知っているのだ。


「……あの、ごめん。なにか悪いこと言っちゃったかな」


俺と風丸の不審な動きが目についたのだろう。申し訳なさそうに眉尻を下げるみきの姿がより一層罪悪感を煽る。

おかしなことだが、サッカー部の皆にこうした気持ちになることはなかった。悪いことをしている自覚がなかったわけではない。人を傷つけて喜んでいたわけでもない。
それでも、自分たちと対等以上に戦った彼らは、むしろ俺にとっては恐怖だった。負けてしまえば、父さんに捨てられるのでは。そう思わせる存在。
代表選手に選ばれてから彼らが自分やヒロトに対して悪感情をぶつけることなく、仲間として向かい入れてくれたこともその一員だろう。

自分の中で、あの事件は既に終わったーー過去のものになっていたのだ。


「大丈夫?顔色が悪いよ……本当にごめんね、私が変なこと言ったから」
「いや、そういうわけじゃなくて……むしろ謝るのは俺のほうなんだけど、」


真実を告げると、みきの表情はほんの一瞬だがたしかに凍りついた。全国の学校を壊して回っていたときに嫌になるほど見たその顔。きっと雷門中が破壊されたときもみきはそこにいたのだ。

動揺する気持ちを必死に押し隠す。自分が慌てふためいてはいけない。今自分がするべき態度、それが何か痛いほど分かっていた。
事実を知り、みきがどういう行動に出るか。どういうものであっても受け入れなければいけない。覚悟はあったはずなのに、小さく指先が震えた。


「みき、緑川は確かに宇宙人とかやってたけど、今は大切な仲間で」
「大丈夫だよ風丸くん、ちゃんとわかってる。試合を見てたらわかるよ。ねえ、私も一緒に行ってもいいかな?街を案内するんでしょ?」


ーー答えはひどく意外なものだった。
思うところがないわけではないだろうに、みきは俺を責めることもせず、かと言って許すとも言わなかった。罵倒や中途半端な慰めではないそれを、嬉しく思わないはずがない。


「緑川くんは風丸くんの……イナズマジャパンの大事な仲間なんでしょ?なら私も仲良くなりたいな」


まだ笑顔はぎこちない。それでもみきが自分を受け入れるつもりであるのは痛いほどわかる。これではまるで立場が逆じゃないか。

『我らネオジャパンの手伝いをしてくれた親切なーーすこし変わっている女子』
砂木沼さんの言葉が今ようやく真に理解できた。

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