イナズマジャパンとネオジャパンの試合がどうなったか。部活の休憩時間に届いた源田くんからのメールに全て書いていた。どうやら試合は負けてしまったらしい。悔しいけどすっきりしたとあるそれに「お疲れ様です」と短く返事をした。
メールの最後にはよこうちも頑張れと激励の言葉もあった。源田くんたちの勇気を分けてもらった、その事実に胸の奥が暖かくなる。


「先輩!あの、私……部長やってみたいです!」


携帯を胸に握りしめたまま叫んだ言葉は、自分で思っていたより遥かに大きく、体育館に響いた。皆の注目を一斉に集めることになり、すこし背中が丸くなるが、それでも先輩から目を離すことはしない。


「私、たしかにまだまだ下手だし、先輩と比べると何もできないけど、チアが好きです!だからできることならなんでもしたいんです!」


頭に浮かんだ言葉をそのまま音にする。文字で見ると流暢だが、実際の音はもっと途切れ途切れですごく聞き取り辛いものだったに違いない。
なのに先輩は私が言葉を詰まらせても、急かしたりせず、うんうんと真剣な目つきで頷いてくれていた。


「よこうちさんの気持ちはよくわかったわ。ありがとう、立候補してくれて。……なんとなくだけど、よこうちさんはきてくれる気がしてたから、当たって嬉しいわ」
「え、ど、どうしてですか?」
「よこうちさんを見てればわかるわよ」


結局先輩はそんな曖昧な台詞だけで、なぜかということは教えてくれなかった。それでも、先輩が私を認めてくれていることは十分すぎるほど理解できて、嬉しさで涙が滲んだ。

立候補したとしても私が部長になるとは限らない。それでもより一層部活に力を入れることを誓ったのだが、現実はそう上手くはいかない。
建て直されたばかりの学校には、私と同じように部活に飢えた人間が溢れている。ただでさえ部活動の多い雷門なのに、いつも以上に体育館の予約が取りづらいのだ。

おかげでせっかくの休みだというのに、私は一人で街にいた。友達を誘おうにも秋ちゃんたちは家にいない。いや、サッカー部以外の友達が全くいないわけではないが、電話帳の大半をサッカー部が占めているのも悲しい事実だ。


「一人って……すごく寂しい」


最近は隣に誰かいることが多かったから、余計にそう思う。今からでも誰か誘おうかと携帯を開いたが、丁度良く画面の向こう側に知ってる顔を見つけた。


「風丸くん!」


勢いよく手を振ると向こうもこちらに気づいたらしい。同じように手を振り返してくれた。
その隣には私の知らない緑の髪をした男の子もいる。試合で見たことはあるから、おそらく同じイナズマジャパンの人なんだろう。


「こんにちは風丸くん。珍しいね、こんなところで会うなんて。今日はお休みなの?」
「ああ。けど特に用もないからこいつに街を案内してたんだ」
「はじめまして!俺、緑川リュウジ、よろしく!」
「よこうちみきです。こちらこそよろしくね、緑川くん」


この辺りを案内しているということは緑川くんは雷門中の人じゃないのだろうが、不思議だ。私はサッカーの試合ではなく、もっと違うところで緑川くんの顔を見たことがある気がする。
ところがそれを素直に伝えると、二人ともすこし困った顔をした。


「……あの、ごめん。なにか悪いこと言っちゃったかな」
「いや、そういうわけじゃなくて……むしろ謝るのは俺のほうなんだけど」
「え、どうして?」


既視感があるとはいえ、おそらく私と緑川くんは初対面だ。言葉の意味が理解出来ず首を傾げる私に、緑川くんは苦笑しつつ自分の前髪を持ち上げる。


「あ、え……緑川くんって、」
「そう。エイリア学園じゃレーゼって名乗ってた。だから俺は君のこと覚えてないけど、その……君が俺を知ってるってことは」


雷門中が破壊された日のことはよく覚えている。ただ、怖かった。あれからも色々あったけど、多分あのときが一番恐怖を感じた。夢にまで見たことさえある。
私があの日あの場所にいたことに気づいた緑川くんは、先ほどまでの人懐こい笑顔は形を潜め、どこかバツが悪そうに目を逸らした。


「よこうち、緑川は確かに宇宙人とかやってたけど、今は大切な仲間で」
「大丈夫だよ風丸くん、ちゃんとわかってる。試合を見てたらわかるよ。ねえ、私も一緒に行ってもいいかな?街を案内するんでしょ?」
「え?……ああ、もちろん」


慌てて緑川くんを弁護する風丸くん。それを見ただけでもわかる、緑川くんがどれほど大事な仲間なのか。
なら私も仲良くなりたい。ぽかんと口を開ける二人の背中を押して歩き出すと、そのうち緑川くんがお腹を抱えて笑い出した。


「砂木沼さんに聞いてた通り、みきってちょっと変わってるな!」
「なにそれ?!え、私なにか変なことした?砂木沼さん、私のことなんて言ってたの?!」
「それは言えないなあ。天機泄らすべからずさ」
「なにそれ?難しいこと言って誤魔化してるでしょ」


いったい砂木沼さんは緑川くんになんといったのか。ネオジャパンの皆を手伝いに行ったとき、転けたり荷物をひっくり返したことがある。そういった失敗が筒抜けになっているならすごく恥ずかしい。これ以上広まらないように緑川くんに口止めしたいのだけど、彼は元気よく逃げ回って捕まらない。
それを捕まえようとする私たちの鬼ごっこを見て、そのうち呆気にとられていた風丸くんも楽しげに笑い出した。

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