こういうの苦手なんで
このまえセドリックに手伝ってもらって、すっかりハロウィン仕様の店は生徒に大人気だった。 お菓子が売れること売れること。ちなみに、猫耳と尻尾つけていたらセドリックは大喜びだった。彼が店を出た直後に外したけどね! 夕食前までだけで、これだと今日の総合収入を数えるのが楽しくなりそうだ・・・。と、考えて生徒たちが食事を終えて売店にやってくるのを待っていた。 ・・・・しかし、なぜか生徒たちはやってこない。
なにか、あったのだろうか。と、思って廊下に出れば視界には銀色の影が見えた。 「バロン!!」 その銀色のシルエットはこちらへとやってきた。 「ルーシュ、」 「ねぇ、何かあったの?生徒たちが来ないんだけど。」 そう問えば、スリザリン寮のゴーストであるブラッディ・バロンこと「血みどろ男爵」は私を見下ろしていた。相変わらず辛気臭い顔をしてる。 「ああ、ルーシュは広間で食事はしないからか、」 「え?」 「先ほど、地下室にトロールが迷い込んだ。」 「!?」 ビックリして、思わず手にしていたCANDYのロゴが入ったエプロンを落としてしまった。しかし、それほどの衝撃だ。 「ト、トロールですって?」 「ああ。先ほど、職員が騒いでいた。生徒たちは監督生と寮へ戻ったよ。」 「けが人は?」 「・・・・・生徒は避難したはずだ。だが、」 バロンは言いよどんだ。
「生徒は、って?」 「・・・。」 「バロン、教えてよ。何?」 急いでるんだから!と告げればバロンは「包帯と、消毒薬は君の店に?」と聞いてきた。 たしか、この前入荷した緊急セットがあったはずだ。コクッ、とうなづいて手頃なバスケットに包帯と消毒薬・・・あと、その他もろもろをツッコんだ。 「先生の誰か?だとしたら、医務室行けばいいじゃない。」 「・・・・。」 そう漏らした私にバロンは無表情に「私が教えたとはいうな。」と釘を刺された。 なにが?と思っているうちにバロンは空中で向きを変えた。そして「地下室」と付け加えて、壁を通って消えてしまった。
思いがけない事態に、少々焦りながら私は店を一度閉めた。この分だと、今日はもう生徒は来ないだろう。ひとまず、校長先生のところにいかなくては。っていうか、地下室ってことは明らかスネイプ先輩のことでしょ!? 少しパニックになりながら、私は杖をもって黒いローブを着た。 え、まさかまだトロールうろついてたりしないでしょうね!? バロンが「職員が捕まえた。」って言って・・・・・ない、??うん?と、考えながらもすでに私は階段を下りていた。地下牢教室に出たというなら、ここには来ないだろうし、下りる途中に誰か先生に会えるかも!!と、私は恐る恐る階段を下りていた。
廊下を歩いていると、バタバタ、と足音が聞こえてきた。 「まぁ、ルーシュ!」 「マクゴナガル教授!」 「貴女のところに伝達するのを忘れてました、すみません、」 慌てたマクゴナガル教授に「ブラッディ・バロンから話は聞いたので、大丈夫です。」と答えれば彼女は胸をなでおろしていた。 あれ? と、私は首を傾げた。 血みどろ男爵が私の店の前の廊下に来るのはめったに・・・いや、正直彼の意志では今までにない。 だとしたら、てっきり先生たちが伝令でバロンを私のところに寄越してくれたのかと思っていたんだけど・・・違ったのか。だとして、バロンが自分から来たとは考えにくいんだけど。
「トロールは?」 「ええ、もう大丈夫ですよ。」 「よかったぁ、」 「あなた、よほど慌てていたんですねぇ。」 髪の毛が乱れてますよ。とマクゴナガル先生に指摘されてしまった。そういえば、お店にクローズの看板かけたっけ?と考えたけど、すぐ戻れば問題ないだろう。 トロールはおいておいて、私は「じゃあ、失礼します!」とマクゴナガル先生の横をすり抜ける。後ろから「廊下は走らない!」とお叱りを受けたが、スルーした。赦して先生!
そんなわけで、懐かしの地下にあるスネイプ先輩の部屋のドアを叩いた。 ノックを3回するものの、返事はない。 あれ?留守? いや、でもバロンがここだって言ってるし・・・・。もしかして、居留守だったりして。「せんぱーい、いますかぁ?」 ドア越しに、そう声をかけた。いくらこのドアが厚くても、このボリュームで聞こえないってことはないだろう。 「えーっと、トロール迷い込んで生徒分のお菓子が余っちゃったんで、置いておきますね!バスケットはあとで返してください!」 相手がスネイプということを考えると、素直に受け取るとは思っていなかった私なりの工夫だ。だてに付き合い長くないわ。ってか、薬学教授なんだから消毒薬くらい自分で作れるだろうけど。まぁ、一応だ。
でも、なんで医務室行かないんだろう。 怪我してるの知られたくないのかな?バロンも「教えたと言うな、」って言ってたし。相変わらず謎すぎて私困っちゃうんですけど。 なんて思っていたら、ガタッと音がした。 ビクッ、と振り向けば「テオか?」と低い声が帰ってきた。やっぱり居たんじゃないか!! 「そうですよ!」 「何の用だ、」 「だから、届け物。入っていいですか?」 そう尋ねれば、少し間が空いてから「ああ、」と許可が下りた。 ドアの前に置いたバスケットを持ち上げて、部屋の中に入った。先輩は暖炉の近くの椅子に座ってた。 パッと見、どこも怪我はしてないようだけど、あまりにも優秀すぎる私の五感はすぐさま動いた。
眉を顰めれば、先輩は「なんだね?」と同じく眉間に皺を寄せる。 私はバスケットの中から包帯と白い布とボトルに入れた水を取り出した。彼は目を見開く。 「なっ、」 「どこですか!?どこ怪我したんですか!?」 ぎょっ、とするスネイプ先輩に詰め寄れば彼は唖然としていた。その間にも、私は救急セット片手に彼に近づく。 「どこも怪我などしていないだろう、」 「怪我してないならなんでこんな鉄臭いにおいするんですか!私の嗅覚が犬並みだなってバカにしたの貴方でしょうが!」 そう半分キレていると彼は言葉に詰まっていた。 こんな、はっきりとわかるほど血の匂いさせてるなんてどういうことだ。怖い顔してる先輩が、少しして諦めたように「足だ。」と告げて、私はすぐさまかけよった。
「・・・えぐい。」 そう感想を漏らすと、先輩は心底嫌そうな顔をした。 「痛くないんですか?」 「先ほど鎮痛薬は飲んだ、」 「・・・で、まだ効かないんですよね?」 だって、効いてたらあなた歩き回るでしょうが。と、指摘してやれば彼は「どうしてこういう時ばかり賢くなるんだか、」と文句を言っている。 「ズタズタじゃないですか。」 「見ればわかる。」 そう文句を言った先輩にお構いなく、私は持ってきた布に水をしみこませて傷口回りの血をぬぐう。痛かったら言ってくださいねー。と言いながらゆっくりと綺麗にしていく間も、彼は無言だ。もちろん、彼が痛いからと言って素直にそれを訴えるとはさらさら思っていない。白かった布が赤く染まっていくのを見ながらだんだんとはっきりしていく、肌と傷の境界線。かなり深いよ、コレ。
「えーっと、先輩、次はどうすればいいですか?」 とりあえず、やっとこ綺麗になった(といっても傷はパックリいっているんだけど。)足を見る。 私は癒術の知識があるわけではないので、そう支持を仰いだ。 「そのまま、包帯を。」 「消毒とかは?」 「・・・どうせ効かん。」 「毒性あるんですか?この傷。」 「おそらくはな。」 「化膿しちゃったり・・・・、」 「とりあえず、だ。我輩がそんなへまをすると?」 「わ、わかりましたよ。」 どうも、気が立っている様子なので、大人しく包帯をぐるぐると巻く。長さたりるよね!?こんな大けがだと思ってなかったから心配だったけど、大丈夫そうだ。 「きついですか?」 「いや、」
なんとか巻き終えて、私は先輩を見上げた。無言で包帯を睨み付けている先輩。 「あの、ごめんなさい、こういうの苦手なんで、」 そう告げると、彼は私を見た。 「いや・・・手間を取らせて悪かったな、」 「・・・大丈夫なんですか?」 「死にはしない。」 「そりゃ、そうでしょうけど・・・・。」 私はそう口ごもった。
「あと、これ・・・ハロウィンのお菓子。お見舞いに上げます。」 「お前、」 「トロール入ってくるから、生徒に渡す分余っちゃって。ゴミ箱にポイするのはもったいないから。」 「・・・・・ああ、」 「でも、先輩も年なんじゃないですか?トロール相手にそんな怪我するなんて。目にゴミでも入ったんですか?」 そう指摘すれば彼は一瞬怪訝そうな顔をして口を開きかけたものの、結局口から出たのは「お前だったら脚一本そのまま持っていかれたんじゃないかね?」という嫌味だった。 せっかく来てあげたのに!!と、私は腹が立った。 「だれも来てほしいと頼んだ覚えはないが?」 「ムカつくっ、」 「ほぅ、我輩にそんな口の利き方していいと思っているのかね?」 「あとで絶対ルシウス先輩に言いつけてやるっ!!」
捨て台詞とお菓子をなげつけて私は先輩の部屋を出たのだった。
「・・・・本当に、気が利くんだか、ただの間抜けなのか分かったもんじゃないな、」 スネイプは出て行ったテオの背中を見ながらそう呟いた。 テオだって仮にも自分の後輩だ。この傷が、トロールにつけられたものではないことは分かったのだろう。それでも、追及せずに自分の言うことを大人しく聞いていた彼女は誰よりも自分を理解してくれているのだろう。 学生のときもそうだった。 ブラックやポッターにつけられた傷を見て「絶対保健室に行くべきよ!」と検討をつけて怒りだすのがリリーだとすれば、「先輩もやんちゃですよねぇ、またどこかでぶつけたんですか?」と知らないふりをするのがテオだった。 どちらがいいとは言わないが。
投げつけられたチョコレートを見て、心に想ったのは・・・・頼むから、ルシウスを引っ張り出すのはやめてくれ、という全然方向性の違うことだった。
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