寝不足は美容の敵


「ハーミーちゃん、これ、差し入れ!」
「ハーミーって呼ばないでくださいっ!!」
「ええ?だって可愛いじゃない。」

ふわふわとした髪に、微かに赤くなった頬、くりっとした目。
とても可愛い一年生の彼女は、ここ最近はウィーズリーの双子並にこの店にやってきていたのだ。彼女の目的としては、店の奥のフードコートで勉強すること。
熱心な彼女は授業が終わり、図書室で本を見つけ、そしてこの店にやってくる。
調子が良いときは閉店ぎりぎりまで奥のテーブルで参考書を広げて「あーでもない、こーでもない。」とやっていた。見る限り、とても勤勉なようで、見ているこっちとしては「もうちょっと遊べばいいのに。」というのが正直な感想だ。

閉店も近いため、もう店には誰もいない。
入学から一か月ちょっとがたち、物珍しさもなくなったのか混み合うのは週末ぐらいだ。それはハーマイオニーにしてみれば好都合だったようだ。
「これは?」
私がテーブルの上にのせたカップの中身を覗き込みながら、ハーマイオニーが首を傾げた。
「レモン・カクテル。当店オリジナルのどりんくでございまーす。」
「噂の?」
「噂?」
「フレッドとジョージがよく話をしているの。」
「ああ、」
たしかに、彼らはこの飲み物のファンだ。
「ビタミンたっぷりで美容に良いわよ。頑張ってるハーミーちゃんに私からの差し入れ。」
「・・・・・ありがとう、」

ハーミーちゃん、と呼ばれたことは気に入らないようだがそれでも小さくお礼を言うと湯気の立つカップを持ち上げた。
私も彼女に合わせて自分のために淹れたコーヒーを口に運ぶ。


「・・・おいしい、」
「それはよかった。」
ハーマイオニーは、ふーふー、と冷ましながらゆっくりそれを口にしていた。
私はそのすきに、テーブルの上に広がる羊皮紙を眺める。
「・・・懐かしいなぁ、」
「宿題が?」
「ええ。私は劣等生だったからレポートもいつも評価悪かったし、あんまり勤勉じゃなかったな。」
「そうだったんですか。」
「そうだったんですよ。」

私はクスッ、と笑った。

「あ、でも呪文学は出来た気がする。」
そうつぶやけば、ハーマイオニーは笑った。
「ミス・ルーシュはどうしてここで売店をやろうと思ったの?」
「んー、自分が欲しかったからかな。」
「え?」

「自分が学生だったころに、ホグワーツに売店があったら便利かなぁって思ってたのよ。」
そう話せば、ハーマイオニーは「そういう理由だったのね。」と曖昧に笑う。
「夢のきっかけなんてその程度で十分なのよ。まぁ、ハーミーちゃんはもっと偉大な夢を持ってるかもしれないけど。」
そう告げてウィンクをすると「ハーミーはダメって言ってるでしょ!」と怒られてしまった。
チャーミングだ。


「ごめんごめん、けど可愛いものは苛めたくなるでしょ?それと同じなのよ。」
ムッ、とした顔のハーマイオニーをそう宥めた。
彼女は飲み物を飲み終えると、鞄に教科書や羊皮紙を仕舞う。
その横顔には、少しだけ疲れの色が見えた。
「勉強も、ほどほどにしたほうがいいよ。」
「・・・、」
「学生のうちしかできないこと・・・まぁ、勉強もそうだろうけど、青春しなよ。青春。」
頬杖をついて、そうつぶやけばハーマイオニーは少しだけ眉をひそめた。


「・・・・友達は、いたほうが楽しいよ?」
そう告げると、ハーマイオニーは少しだけ困ったような顔をするのだった。
「私、勉強してるほうが楽しいわ。・・・それに、校則をやぶったり、そういう友達といても、気が気じゃないもの、」
「確かに、正しいことを正しいっていうのは間違いじゃない。でも、時にはユーモアも必要だよ。」
そうアドバイスを送れば、彼女は力なく頷いた。

「ま、何かあったらおいで。私なんかで良ければ話聞くわよ?」
「ありがとう。」
「それに、もし苛められたらおいで。スリザリン出身者として最高の呪いでやり返してあげるから。」
そう笑えばハーマイオニーは顔を青くして「そんなことダメよっ!」と叫んだのだった。

「ミス・ルーシュも、あんまり不規則な生活はしないほうがいいわ。」
「不規則じゃないわよ。」
「だって、朝ごはん食べないんでしょ?」
「あー、まぁ、うん。」
「寝不足は美容の敵っていうけど、眠りすぎもよくないんじゃないかしら?」
流石優等生。痛いところをついてくる。

降参、というように両手を上げて私は笑った。

「わかったわよ、そのうち、ね。」
「ええ、」


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