ついつい思い出話になる


「テオ、顔が酷いぞ。」
「・・・・言い方ってものがあるでしょ。」
仮にも、私レディなんですけど。と、ジトッと睨んでも生徒の大半が苦手意識を持つこの魔法薬学教授にとってみればどこ吹く風だ。

「だいたい、お前は・・・・」
あーあ、始まっちゃったよ。スネイプ教授の説教タイムだ。
校長の好意で店を出しているくせにゆっくり寝たいからという理由で、開店が遅い。とか、生活が乱れてる。とか、生徒に甘すぎるとか、よくもまぁそんなに文句が出るものだと感心してしまう。
あげく、私の学生時代の話まで持ち出されてしまっては堪ったものじゃない。
私はかつて彼の後輩だったのだ。年齢がバレるので今から何年前の話かはご想像にお任せしよう。

スリザリン出身の私は、ブラック家のレギュラスの紹介でこのセブルス・スネイプと知り合った。
人付き合いが苦手だというわりに、案外世話焼きだった。レギュラスと私をよく面倒見てくれた記憶がある。面倒をみるその時は必ずと言っていいほど嫌味つきだったけど。


「昔の話を持ち出さないでください。貴方が散々『お前を雇うような人の良い人間が見つかるか見ものだな。』って言ってたこと校長に言っちゃいますからね。」
「ほう、言うようになったな。」
彼はフン、と鼻を鳴らした。


「それで、薬草は届いたのだろう?」
ああ、そうか。昨日入荷の知らせをふくろうで飛ばしたんだった、と思い出す。
「届いてますよちゃんと。」
ちょっと待ってくださいね。と、言ってカウンターの奥の収納スペースから『ユニコーンの角、ニガヨモギ、毒ツルヘビの皮(以下略)』と書いたメモがついている袋を取り出した。
メモを剥がして「商品確認してください。」と渡した。
彼は一瞥すると「確かに。」とうなづいて見せた。


「えーっと、合計で・・・・・こんなところでどうでしょ。」
叩いた電卓を見せれば先生は少し眉を動かした。
「あれ?お気に召しませんか?ユニコーンの角1本で21ガリオンしますしね、今回物が多かったんで、すこーし頑張ってきました。」
買いに行くより安いと思ったんですけど?と言うと先生は小さくため息を吐いた。
「また値切ってきたのか、」
「ちょーっと、コネがあるんですよ。」
「薬草問屋に?お前が?」
「・・・先輩、それ私にすごく失礼ですよ。」
「今更お前がその程度で傷つくほど繊細じゃないことは重々承知だ。」
「・・・今イラッときました。」

ムッ、とした私をセブルスは鼻で笑う。
代金を受け取りながら「昔はもっと優しかったのになぁ。」と恨めしくつぶやいた。
「何の話だか分かりかねますな。」
「でました!先輩お得意の忘れたふり!!」
私が大げさに驚いて見せれば、彼は目を細めて私を睨み付けた。
けど、長い付き合いのせいでそんな視線はまったく効果ない。

「ま、先輩が素直じゃないのは昔からですね。」
「・・・・。」
「少し顔色悪いですね。寝不足するなっていうのも難しいでしょうが、ちゃんと体調には気を付けてくださいね。」
「・・・・。」
「・・・もう、良い年なんですから、」
「お前はいつも一言多い。」
ビンっ、とオデコに凸ピンをくらった。威力強すぎ・・・っ、と額を抑える私にセブルスは鼻で笑っている。

大人げない・・・。
と、内心思いつつもそういう性格だからこそのセブルス・スネイプだと思う。急にしおらしくなったり、優しくなったりしたらすごく・・・困る。
いや、彼が実はものすごく紳士的で生徒想いなのは知っているけど、それは前面に出ることがないからこそ、彼の良さなのであって・・・。
「お前、」
「ひゃい?」
「・・・・今、非常に失礼なことを考えなかったか?」
「めっそうもない!」
私はぶんぶん、と首を振った。
この人、勘が良すぎるのがたまに瑕だ。

彼は「とりあえず、また何かあったら頼む。」と言って店の出口へと向かっていった。
「はーい。ありがとうございましたー。」
間延びした挨拶に、彼は振り返りもせずにそのままドアの外へ出て行った。


何年も昔、私もセブルスもそして今はどこにいるのか分からないレギュラスも・・・この学び舎で過ごしていたのだ。
時代も、生徒も、教授も・・・あのころとは全く違ってしまった今、こうして私と彼はこの学校に再び住み着いている。
さっきのように、たまに思い出したように私とセブルスは学生時代のような感覚で会話を織りなす。それでも、どうしても感じてしまうのは距離だ。
在学中は、ずっと私の面倒を嫌々ながらに見てくれた優しい人。今でも十分私には甘い(本人はおそらく自覚していない)けど、まったく同じではいられない。
それは仕方のないことだろう。


「大人になるって、そういうことかね・・・。」

時折、私の顔を見て苦しそうに言葉を紡ぐ彼は過去を呪ってでもいるのだろうか。
少なくとも、私は彼と同じ場所で働けることに安心感を持っているのに。
と、感傷に浸っているとドアが開いた。

「いらっしゃーい。」
暗い考えを引き離さねば。お客様のお出ましだ。

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