蛇の申し子ゆえに
最近、校内のムードは最悪だ。 ハロウィン以来、ピリピリとした雰囲気のせいで気分は急降下。そして、店の売り上げも例年になく悪かった。 生徒たちがあまりフラフラと出歩ける状態ではないからである。
「うー、赤字だ。」 「今まで生徒たちの好奇心に付け込んで儲けに儲けていたではないか。」 そう厭味ったらしく言った先輩を横目に、カウンターで帳簿を付けていた私。 「おまけに、校長の好意で施設費もかかっていないのだろう?」 「まぁ、それはそうなんですけど。」 「しかし、身の危険よりも売り上げの心配とはな。」 スリザリンの継承者によって開かれたという秘密の部屋。
「・・・・どう思いますか?」 「何がだ。」 「秘密の部屋。」 私がそう訪ねると、彼は眉間に皺を寄せた。 「イタズラだとか、そういう話じゃすまなくなってるんですよね?今朝、マクゴナガル先生が私のところにもきましたよ。」 「スリザリンの継承者に秘密の部屋。まるで伝説かなにかのようだな。」 「他人事じゃあすみませんよ。私たち一応スリザリンだったわけですし。ルシウスさんあたり、絶対何か知ってる気がしますけど。」 そう告げれば、スネイプ先輩は疲れたようなため息を吐いた。 「お前はどうなんだ。」 その言葉に、私は手を広げて顔の前で振る。 「うちは純血でもたいしたお家柄ではないので。分家の分家だし。それに、スネイプ先輩が知らないことを私が知っているとでも?」 そう言い返せば、先輩は「怠け方に関しては君以上の人間を知らないがね」と厭味ったらしく笑う。盛大に鼻で笑い返してやった。
「嫌な空気ですね。」 城全体が、嫌みなくらいに硬い空気に包まれている気がした。 「まるで・・・」 「なんだ?」 途中で言葉を切れば、彼は私を見る。まるで、闇の時代のホグワーツのようだ、なんて言葉は言えなかった。あの頃、私の家族や友人たちはこぞって闇に染まって行った。セブルス・スネイプもその一人だったと言うことを思いだす。 当時の話をするのは、今でも嫌いなのだ。彼らにしてみれば、私のように闇に染まることなく、安全な場所を選んだ私はただのマグル贔屓な臆病者だったに違いない。でも、私にしてみれば人がどんな思想を持とうと知ったことではないし・・・もっといえば、青春時代を共にしたスリザリンの友人たちは今も大切に思っている。ルシウス先輩のことも、今目の前にいる彼のことも。ただ、それを口にしたところで過去は変わらないし、お互いに気まずい思いをするということは分かり切っている。
「いえ、選ばれた男の子が来て以来、イベント事が増えたなと。」 「厄介ごとが増えた、の間違えではないかね?」 分かりやすく機嫌を悪くする先輩を見て、私は苦笑した。 「やっぱり、先生方も重要視してるんですか?」 「さあな。」 「うちの店にはあまり顔を出さないので。」 時折、ウィーズリーの末っ子に連れられてくるもののそうそう頻繁には現れないグリフィンドールの少年。先輩が毛嫌いするのもわかるほどには、父親に似ていた。 気分を害したらしい先輩は、私の出した紅茶を飲み干すと静かに立ち上がった。
「帰るんですか?」 「長居する理由もあるまい。そうそう暇ではない。」 苦々しくそう言った先輩。私は彼を見上げて笑う。 「いつも私に何時間も毒吐いてるのでてっきり暇を持て余しているのかと。」 帳簿をパタリと閉じて、レジに鍵を掛ける。最初に魔法薬の本をお買い上げしてもらったので、見送りはきちんとしようと思う。一応お客様だ。悪く言えば、金ヅルともいう。 お酒も、たばこも、女性にも興味がない(個人的な見解ではあるが)彼の懐は温かいはずだし、他の薬問屋ではなく私から魔法薬の材料を買ってくれるもの助かる。まぁ、あれは学校のお金使ってるんだろうけど。
扉のところまで送れば、先輩は出ていくときに私を見下ろした。 「何か?」 先輩は小さくため息を吐いた。そして、生徒を叱る時のような厳しい目をして言うのだ。 「恩恵は、永続的ではない。注意を怠るな。」 「あ」 それだけ言って先輩は言ってしまった。何が言いたかったのか・・・そう考えながら店じまいをする。きっと、ホグワーツを騒がせている事件に対して「気を付けろ」と言いたかったのだ。スリザリンの継承者は、私がスリザリンの出身かつ純血であったとしても襲ってくるかもしれない。そう揶揄しているのだろう。 先輩が心配してくれるのはそうそうないことなので、大人しく言うことは聞いておこうとは思うが犯人が誰なのか分からない私に忠告しても無駄だろうに。
数日後、ハーミーちゃんが私に明らかに何かをたくらんでいる表情で店にやってくるのだった。
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