ポリジュース薬
珍しく、ハーマイオニーが友人をつれて店にやってきた。 よく見ると、それはポッターと、ウィーズリーの末の男の子だった。基本、ハーミーちゃんは私の店に来るときは一人なので少し驚いたけれども、友達ができたのだと少しだけホッとした。 「いらっしゃい」 カウンター越しに声を掛けると、ハーミーちゃんは神妙な顔をして私の下へとやってきた。 「ねぇ、テオ。ちょっと、仕入れの相談があるの」 「ん?」 何か急ぎの用事だろうか。私はカウンターから身を乗り出してハーミーちゃんを見つめる。
「魔法薬学の練習をしたくて、薬草なんかを頼みたいんだけど」 「練習だけならスネイプ教授に言えばお金出さなくても・・・って、ああ、彼に頼めないか」 君たちグリフィンドール生だもんね。と、苦笑すればハーマイオニーは「さすがテオ、話が早いわ」と嬉しそうに言った。
「でも、いくら貴方でも危険な魔法薬の実験道具を売り渡すのは心が痛いんだけど」 私はとりあえずリストを受け取って上から順番に目を通していった。何項目かあるうち、私は二角獣の角の粉末と毒ツルヘビの皮に目を止める。 ははあ、と私は顎に手を当てる。
「悪いことは言わないけど、この注文は受けたくないな」 そう告げると、ウィーズリーが「どうして?」と尋ねてきた。あの双子よりも頭の回転が遅そうな表情に、私は肩を落とす。 「万が一魔法薬が失敗して、貴方たちに何かあったら叱られるのは私なの。そんなの嫌だわ」 「でも、どこで材料を調達したかなんてわかりっこないじゃない?」 「残念なことに、私はスネイプ教授からも魔法薬の材料の仕入れは承っているわ。問屋からの領収書をスネイプ先生に見せるって約束になってるの。それなのに今回だけそうしないなんて怪しまれちゃうわ」 そう答えればハーマイオニーは「どうしてもだめなの?」と言った。
「悪いことは言わないから、やめときなさい。実験がしたいならスネイプ教授に許可を取るのよ。ダメって言われたら、そうね・・・そしたらその時は私が売ってあげる。」 「最初から売ってくれればいいのに」 「優先順位ってもんがあるでしょ」 私はそう告げて譲らなかった。3人はがっくりと肩を落としてお店から出ていった。
夕飯後、すぐさま魔法薬学教授のところへと飛んでいく私は、教育者でもないのになんて生徒想いなのか・・・。勢いあまりすぎて途中で階段から落ちそうになったけど、それどころではない。 バン、バン、とセブルスの部屋のドアを叩けば「何事だっ」と恐ろしい顔のセブルスが出てきた。私が生徒だったら絶対ビビって逃げていたよ。セブルスはドアを叩いたのが私だと分かると額を抑えながら「こんな時間になんだ」と不機嫌そうに言った。
「ここじゃ話したくないから、中入れてください」 「急にきて失礼な・・・」 「本当にそれどころじゃないから」 私が大真面目な顔をして言えば、彼は諦めて中に入れてくれた。それで?と威圧してくる彼に私は息を整えながら話をした。
「ある生徒が、私の店に来て魔法薬の材料を注文しようとしたわ」 ピクリ、とセブルスの眉が動いた。 「貴方みたいな怖い先生に実験の練習を申し出るのは難しいだろうしと思って、聞くだけ聞こうと思ったのよ」 「・・・生徒は何を?」 先輩は何となく事情を察したのか、厳しい目つきでそう尋ねてきた。
「ホグワーツの敷地に生えているようなものもあったけど、フェイクね。二角獣の角の粉末と毒ツルヘビの皮が注文リストに紛れていたわ」 顎に手をやる先輩を見上げて、私はため息を吐いた。 「売り上げは大事だけど、生徒が大事なのも本当よ」 「・・・後々トラブルになって運営に響くのが痛いのではないのかね?」 「まぁ、それもある」 私は肩をすくめた。
「で?その材料を入手しようとした大馬鹿者はどこの誰だ?」 「えー、それ言わなきゃダメですか?」 「・・・ということは、お前が贔屓にしている生徒だな?ウィーズリーか?」 先輩は先ほどから落ち着きなく部屋をグルグル歩いている。よほどその生徒が憎たらしいようだ。ていうか、一番最初に名前が挙がるウィーズリーもウィーズリーだ。若干正解だし。
「でも、ほら、私は断ったわけですし」 「外部にルートがあったらどうする」 材料を求めて自分のところにやってくる可能性を全く考えていないあたり本当になんか、先生なんてむいてないよなぁと思ってしまう。私が生徒でも絶対に行かないけど。 「じゃあ、勝手に作らせて、失敗して痛い目見てもらえばどうです?それなら先輩も私も被害はないわけですし」 名案でしょ?と笑えば舌打ちをされた。
「真実薬でも飲むか?」 「嫌ですよ。・・・じゃあ、ヒント」 「テオ、ふざけている場合ではない」 いやいや、絶対あなたなら分かるからって、と私は先輩を宥める。
「グリフィンドールの、二年生」
その瞬間、先輩はまた怖い顔をして「くそっ、ポッター達かっ」と呟いた。 ほら、わかったじゃないか。ていうか、決めつけてるし。
「何をするつもりだ・・・」 「さぁ、そこまでは。でも、彼らを問い詰めても無駄ですよ。証拠はないし」 「注文のリストはどうした?」 「暖炉に放り込みましたよ」 私はひらひらと手を振って見せた。
「でも、何に使うんでしょうね・・・・ポリジュース薬なんて」 そう私が問えば、先輩は鼻息荒く椅子に腰を下ろしながら「知ったことか」と悪態をついた。 「じゃあ、私はこれで失礼しますよ」 「・・・」 「あ、見送りは結構です」 先輩は、疲れたようなため息を漏らした。お疲れ様です、とポケットに突っ込んでおいたキャンディーを二つ机の上に置く。
「テオ」 「はい?」 「よくポリジュース薬の材料を覚えていたな」 そう言われて、私は笑う。
「貴方でしょう?ふくろう試験の前日に、『絶対出るから暗記しろ』って教えてくれたの」 そう答えれば、先輩は「昔のことは忘れてしまったな」と言いながら早くいけ、と言わんばかりに手を振るのだった。
これは密告じゃない。守るための保険だ。 それに私の口からポッターの名前もウィーズリーの名前も、ハーミーちゃんの名前も出してない。うん、オールオッケー。
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