青い春はすぐそこに


ただいま、土曜日の午前9時。
生徒たちは好きなだけ朝寝坊できるし、ホグズミードにだって遊びに行ける。だから、土曜日というのは私がお店を開ける必要性などどこにもないのである。
「パーシー、いつまで唸ってるの?」
しかし、時には例外というものがあるわけだ。

カウンターからそう声をかけると、パーシーはハッとしたように私を見た。そして困惑したように私を見るのだ。
「気づいてないなら教えてあげるけど、そのウィンドウの前にたってもう20分たつよ?」
「なっ」
彼は怒ったような、焦ったような顔をしてみせる。
私はやれやれ、と肩をすくめた。
「そんなにめったに食べられない、ってほど高価でもないじゃない。好きなの選びなさいよ。」
そう指示すれば彼はうん、だかええ、だか分からないけれど反応はした。しかし、まだ納得はしていないらしい。小さなウィンドウの中は、マグルでいうところの冷蔵庫のようになっていて中には色とりどりのフルーツタルトやケーキが入っているのだ。

パーシーはあのウィーズリーの双子の兄で、いつもあの二人に困らされている苦労人だ。真面目だし、堅物だし・・・でも、時折見せるあどけない笑顔や、テストでいい点が取れたときの嬉しそうな表情を見る限りではとても純朴なのかもしれない。
彼が勉強や進路の事以外で・・・しかも、ケーキなどという物質にこれほど悩むのかと私は思わず口を出してしまった。
しかも、まだ開店時間はじまってすぐの誰もいない時にやってくるのだから。

「もしかして、好きな子にプレゼント?」
「ち、違います!」
「本当?」
優等生なMr.ウィーズリーに春が来たとなれば、それこそあの双子には格好のネタだろう。
「でもパーシーが好きになるなんて、やっぱり頭の良い子?」
「ミス・ルーシュ!」
「いいじゃない。」
ムキになって怒るところを見ると、やはり女の子のようだ。
「どの子?」
「そんな子いません!」
「嘘だぁ!いいじゃない。ケーキ、好きなのもってっていいからさ。」
そういうと、パーシーはうっと言葉に詰まった。

「・・・・フレッドとジョージには。」
「絶対言わない。誰にも言わないよ。」
そううなづけば、パーシーは大きなため息を吐いた。
「レイブンクローの」
「ああ!あの監督生の女の子?なんていったっけ、名前。んー、ペネローナ?」
「ペネロピーッ!」
「ああ、そうそう。巻き毛の子でしょ?いいんじゃない?」
監督生同士なら、お似合いだと思う。パーシーは赤い顔のまま微妙な顔をした。

「ペネロピーはどうか分からないけど、最近のレイブンクローの女子陣は右から三番目のケーキが好きよ。」
そう教えてあげると、パーシーは「本当かい?」とどこかホッとしたような顔をした。
結局私のおすすめしたスウィーツを手に、彼は店を出て行った。
紙袋の中に、小さなハート形のキャンディーを二つ入れておいたのを多分彼は気づいていないだろう。
堅物少年の恋に、私はどこか青春の片りんを見るのだった。


「若いっていいですね。」
「頭でも打ったのかね?」
「いやぁ、春ですよ。」
午後にお店にやってきたスネイプ先輩にそう告げれば、彼は怪訝そうな顔をしながら「確かに、お前の頭の中は年中花畑だろうな」と冷たく言い放つのだった。

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