不満げな顔してもダメ
チリーン、となったベルに「いらっしゃーい!」と声をかけると、素晴らしいスピードでカウンターまでやって来た赤毛。 そういえば、ここに来るの久しぶりかもしれないな。 「久しぶりだね、ツインズ。」 「「面倒くさいからって一括りかよ!!」」 そろって不満を漏らす二人に、まぁまぁ、と宥めてやる。 「最近見なかったけど、連日罰則でも受けてたの?」 そう聞けば、二人は「クィディッチ」と言った。ああ、もうそんな時期か。そういえばセブルス先輩もそんなこといってたかも。
「けど、俺たちだって練習終わったあとに来ようとはしたんだぜ?」 「うん?」 ちょっとふて腐れたような顔をしたフレッド。 「俺たちが来るとき、たいていスネイプがいるとはどういうことだよテオ。」 「スネイプ教授?」 私は首をかしげた。 「消灯ギリギリにここきたら、絶対減点だろう?まぁ、痛くも痒くもないけど。」 「ここんとこ、ずっとアイツも来てるよな?」
スネイプ教授は確かにこのところお店に顔を出す。前は薬学の材料の注文がほとんどだったんだけど、最近はほら、あの怪我があるのだ。 本人は嫌だといったのだけど、私が甲斐甲斐しくも包帯を巻いてあげたり、裏ルートで鎮痛薬を取り寄せてあげたりしてるから(鎮痛薬にかんしては、よほど信用ならないらしく怪しんでたけど。)、まぁ、よく顔を見るようになった。
先輩も私と仲良くしてるのを生徒に見られるのは宜しくないようなので、閉店間近になって現れる。 たしかに、双子が彼の来店を目撃するのも無理はない。 「じゃあ、薬学の授業を真面目に受けなさいよ。あんたたちが材料無駄にするせいで仕入れが続いてるんだから。」 「「う゛」」 思い当たる節はあるようだ。
「まさかとは思うけどテオはスネイプと付き合ってるのか!?」 ジョージがハッとしてそう言った。 「何時のまに!?」 いやいや、待てよ双子。君たちの脳内信号は大丈夫??どうしたらそんな大外れな予想がつくのか・・・。 「いや、違うけど。」 「けどめちゃくちゃ仲良さそうだったけど?」 「そう?」 「スネイプがテオの頭撫でてたの見たぞ!」 「は?」 「あとは二人でお茶してるじゃんか!閉店時間すぎても!」 アンタたちはこの店を監視でもしているんですか?と言いたくなる。だいたい、君たちの都合のいいように解釈されてるだけなんですが・・・・。
頭撫でてる?ふざけるなよ。ちょっと冗談言ったらとんでもない力で頭をわし掴みされているんですが。彼の握力とんでもないんですけど。食い込む指とか、あれはもう凶器だよ? 君たちが見るべきなのは、彼の手じゃなくって私の苦痛の表情なんです。 仲良さげにお茶してる?おいおい、勘弁して!確かに、彼は私の先輩だから紅茶もコーヒーもサービスしてるけど、けっして「今日は良い一日でしたねぇー、うふふ、お疲れ様ですぅ。」みたいな会話だと思ってる?彼の生徒の愚痴を聞いて、散々私の行動に関して嫌味をいただき、悪いときには八つ当たりされるのに・・・。 「あー、まぁ、」 けど、今一斉におもった事を双子に言う気にはならなかった。 だってほとんどセブルス先輩への不満だもの。でも、先輩の事嫌いなわけじゃないんだよ。ほら、子供がちょっとやんちゃしてる時に「あらあら、困った子だ。ダメじゃないか。」みたいな、そんなほのぼのとした不満なんだ。 分かってくれるわけがない。 それに、セブルス先輩が生徒ウケ・・・とくにグリフィンドールからは良く思われてないのは知ってる(この点に関しては、先輩も大人げない気もするけど)。 双子が私の持ち合わせている感覚を理解するとは思えないのだ。
「スネイプもスネイプで、店出ていくとき楽しそうだし。」 「テオと話してるときイキイキしてるじゃん。」 「・・・・・そうなの?」 まぁ、イキイキしてるって言いたいことズバズバいって、私がムキになるのを楽しんでるって言われるとその通りかもしれないけど。 「「もしかして、テオがスネイプに狙われてる!?」」 「ないない!!それは天地がひっくり返ってもない!!」 そこは完全に否定しておこう。あの人に限ってはない。何かの事情で、どうしても恋人役が必要な時、もしも選択肢が私と女装したルシウス先輩だったら・・・・・いや、ルシウス先輩もないか。私とおいでおいで妖精だったら、危険と知りながら妖精さんを選ぶかもしれない。
「でも、スネイプもテオも独身だよな?」 「失礼だなぁ君たち。」 「テオって恋人いないのか?」 「いないけど。欲しいとも思わないし。」 「ふーん。」 「へぇ。」 「何よ。」 「・・・まぁ、妥当かなと思って。俺たち、友達でいるのはいいけど、確かに恋人にはしないな。」 うーん、と考えるジョージに「アウト」と言われた。 君たち、私に何の恨みがあるの?と私はうなだれた。落ち込ませたのは自分立ちの癖に「まぁ、落ち込むなよ」とか普通に言っちゃうこいつら・・・・糞餓鬼め!! 久しぶりにレモン・カクテル飲みたいとか言い出したから、嫌がらせにめちゃくちゃ熱くしてやった。舌やけどしてしまえばいいのに。 二人は「この後アンジェリーナに呼ばれてたんだった!」と慌てて店を出て行った。もう当分来なくていいよ、と心底思った私だった。
ヒットポイントが残り少ないから、店しめちゃえ。とか、思ってたら生徒が走ってきた。 誰かな?とか思っていたらそれはセドリックだった。 「どうしたの?セドリック。」 「すみません、インクあります?零しちゃって、」 「あー、あるよ。」 「すみません、お店閉めるとこだったのに。」 「大丈夫大丈夫。私のヒットポイントは一気に今あがってるから。」 「?」 不思議そうな顔をするセドリック。
会計ついでに、先ほどのことを伝えるとセドリックはいつもの紳士スマイルを浮かべてこう言ってくれた。 「テオさんは優しいし、・・・年上に失礼かもしれませんけど、可愛いですよ。ウィーズリーだってきっと照れ隠しですよ。」 ・・・なんていい子なんだ。 オマケにキャンディーあげたらセドリックは苦笑しながら「でも、テオさんにはまだ結婚してほしくないな、」と呟いた。 「え?」 「テオさん、売店辞めちゃいそうだから。」 そんな彼の言葉にキュン、としながら「セドリックがいるうちは何があっても店じまいしないから大丈夫!」と太鼓判を押しておいた。
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