ぼくの女神さま | ナノ

変化

ヴィーナside

もっと、レギュラスに見合うような女性になりたい。
と、ようやく年頃の女の子のような願望を募らせたところで今更どうすればいいのかが問題だった。相変わらず、周りと騒ぐのが得意ではないため、ガールズトークに入り込む勇気は持ち合わせていなかった。
そんな時に出会ったのが、セスティーヌ・フォンディというグリフィンドールの6年生だった。彼女はフランスの生まれで、学年でも指折りの美人だった。
よく考えれば、ホグワーツの女子のレベルが高いことに気づく。

セスティーヌは、フランスの名門の出身で、とても自信家だった。
そのせいで、周りの女の子たちからは妬みや顰蹙をかっていたけれど、そんなことを気にせず自分を貫く彼女は素敵だった。
「陰気な顔ね、カビが生えそう。」
そんな辛辣なジョークを飛ばした彼女に、驚けばセスティーヌはケラケラと笑った。あまり関係深くない人からそんな言葉をかけられて、私はなんと返事をしていいのか分からなかった。けど、私は彼女が誰だかは一応知っていたし、セスティーヌは私が誰であろうが気にしない性格だったのだろう。
「そんな顔、してますか?」
「うん。してる。何か悩んでるの?」
彼女は頬杖を突きながら私を見据えた。

美人に見つめられて、私は余計に気が重くなりそうだった。
髪もつやつやで、肌も白くて。
「そんなに見つめないでよ。」と、彼女は快活に笑うのだ。
「お綺麗だな、と思って。」
素直にそう告げると、彼女は一瞬目を丸くしてからまた笑う。
「そんなの、言われ慣れてるわよ。」
自分でそう言えてしまうのが恐ろしい。しかし、どこか憎めないのはなぜだろうか。呆気にとられていると、セスティーヌは「名前は?アルバーン家の人なのは知っているけど。」と今更なことを言ってきた。

「ヴィーナ。ヴィーナ・アルバーンです。」
「そう。それで?ヴィーナは一体何に悩んでいるの?」
私に言ってみなさいよ。どうせ、小さいことでしょ?と、彼女はそう言った。まるで私が服を選ぶのを悩んでいるのを馬鹿にするような、ごく気軽な問いかけだった。
「大したことじゃ、」
私が逃げ腰じみたことを告げれば、彼女の細い眉毛がクッと上がる。
美人を怒らせると怖い、というのは昨今の通例である。セスティーヌは「こっちおいで。」と私を自分の寝室へと連れ込んだ。
誰もいないとはいえ、談話室の隅っこという場所では不具合だと気を使ってくれたのかもしれない。
「座って。」
彼女は私をベッドに座らせて、そして彼女は他の誰かのベッドに座った。
向かい合って、内緒話でもするかのように彼女は私を見つめた。

実際、誰かに頼ろうということも考えていなかった。
彼女は悪い人ではないのだろうが、軽々しくレギュラスのことを話してはいけないだろうというのも事実だった。
「・・・実は、」
結局、私は相手がレギュラスだということを隠したまま事のあらましをセスティーヌに話した。
そして、彼女は聞き終わった後に私に「馬鹿ねぇ。」と笑うのだった。
「そんなに難しい話じゃないじゃない。」
「貴女にしてみれば、ね。」
私がそう付け加えれば、彼女は「ごめんごめん、」と肩をすくめた。


「いいわよ、」
「え?」
「大したことはしてあげられないけど、可愛くなりたいなら手伝うわ。」
ウインク付で、彼女はそう言った。
「手伝うって、」
「恋愛において、相手選びは中身だなんてとんだ甘えよ。見た目は良いに越したことはないし、あなたの場合はもっと周りを見るべきね。」
セスティーヌはきっぱりとそう言った。
「でも、私は貴方の事まだ何も知らないです、」
「そのほうがいいい時もあるものよ。気楽でしょ?」

セスティーヌと私の間に信頼関係などなかった。
けど、彼女は先日レギュラスが連れていた女子生徒の誰よりも美しいというのは事実だった。その彼女からの申し出を断ったら、もう美の女神から見放されるようなものだとなんとなく思った。

思いついたら即行動!がモットーらしいセスティーヌは、その晩私を見知らぬ部屋へと連れて行った。
中に入れば、そこはまるで学校の中とは思えない空間が広がっていた。
曇りガラスで覆われた浴室に、豪かなドレッサー。白い棚の中には化粧道具がキラキラと整列していた。
「ここは・・・、」
想像もしていなかった空間に言葉を失えば、セスティーヌはまた得意げに笑った。
「私の秘密の場所。すごいでしょ?」
「貴女のものなんですか?」
「ここはね、必要の部屋って言って、必要なものを用意してくれるの。食料だけはどうしてもダメみたいだけど。」
セスティーヌは「寮のお風呂じゃゆっくりできないし、ここなら化粧品もばっちりそろってるの。」とご機嫌だった。

セスティーヌおすすめのシャンプーやらコンディショナー。化粧水やら蜂蜜パック、髪の乾かし方までも逐一細かに説明していくセスティーヌをいろんな意味で尊敬した。
「ヴィーナはね、元がいいんだから。」
彼女は私の髪の毛をブラシで綺麗に整えながらそう言った。
「・・・そう、ですか?」
「ええ。でも、そういうのって自分じゃ分からないんでしょ?だったら、自分に自信がつくまで極めればいいのよ。」
「じゃあ、貴女は極めたんですか?」
自信家の彼女を鏡越しに見つめながら尋ねれば、彼女は「努力はしてるわ。」と言われた。

「ここ、他の人には教えてないの。だから、貴女も内緒にしてね。」
2人で必要の部屋を出てから、セスティーヌはそう言った。
「・・・なんで、私に教えてくれたんですか?」
そう尋ねれば、セスティーヌは「気まぐれ?」と笑ってから「戻るわよ、消灯時間もうちょっとだから。」と廊下を進んでいく。
私を追い抜かして前を歩く彼女からしたシャンプーの淡い香りが、とても心地よかった。
私に勧めたものとセスティーヌが使ったものは別物であるため、私の髪からは同じ匂いはしなかった。


それからというもの、セスティーヌは熱心に私の自分磨きを手伝ってくれた。
美しく見える姿勢だとか、髪の毛のアレンジ、食べても太らない食生活、レパートリーはこれでもか!というほどあって、それを全てこなしてきたセスティーヌを改めて凄いと思った。
「大分お肌の調子よさそうね。」
廊下ですれ違った時に、セスティーヌはそう言ってほほ笑んでくれた。そのおかげでとても嬉しくなって、私は彼女に感謝した。
レギュラスと約束したホグズミード行までには、少しはあの美人なスリザリン生たちに近づけるだろうか。
もちろん、そんなことを口にすれば「スリザリン?ちょっと、目標にするなら断然私でしょう?」と睨まれるに違いないからセスティーヌには言っていない。

「ヴィーナ、今日の夜時間ある?実家から蜂蜜酢のハンドクリームが届いたからわけてあげるわ。」
セスティーヌは、たぶん、私をとても可愛がってくれていた。

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