ぼくの女神さま | ナノ

はじめての感情

ヴィーナside

スラグホーン先生のパーティーに行って以来、レギュラスと私は人知れず顔を合わることが多くなった。
レギュラス様、と呼ぶのを辞めたのもここ最近である。
レギュラスという人は、私には勿体ないくらいに紳士で、見目も良くて、スリザリン以外の寮生からも憧れの対象で・・・・そんな彼を、ファーストネームで軽々しく呼べないというのが私の気持ちだった。
けれども、レギュラスが「やめてほしい。」というのだから仕方ない。
せめて別の呼び方で、と思ったものの「まさか、いまさらミスター・ブラックはないでしょうね?」と釘を刺された。
なので、今は恐れ多いけれども2人の時はレギュラス、と呼ばせてもらっているのだ。

「来週のレイブンクロー戦はもらったな!」
「おいおい、気が早いぞパッドフッド。」
「20点以上点差がないとスリザリンが有利になるぞ。」
「ハン、たいして気にしてないさ。スリザリン戦でコテンパにすればいい話だ。」
「強気だな。流石我が友!」

ガヤガヤ、と談話室が騒がしくなる。
入ってきたのは、レギュラスの兄であるシリウス・ブラックとその友人たちだ。あまり、好きなタイプの人間ではないのはグリフィンドールに入った時からわかっていた。
私は、広げていた羊皮紙をクルクルと巻いた。
そうか、クィディッチの練習が終わったから・・・・と、私はこのあとも選手が戻ってくるのだろうと予想できた。

彼らは、暖炉の前のソファーに陣取ってもうすぐ馬鹿騒ぎを始めるに違いない。
7年生である彼らを、私は冷ややかな気持ちで見ていたし、彼らは私の存在など大して気にしていないだろう。寝室に戻る私とすれ違うようにして、同級生の何人かや、下級生も談話室に集まっていた。
クィディッチの試合が近くなると、周囲の人間が浮かれだってくる。
その流れに乗れない私は、なんとも言えない疎外感を覚えていた。もちろん、あの集団に交じりたいとも思わないけれど。

「あら、ヴィーナ。課題終わったの?」
「いいえ、でも談話室が騒がしくなったから。」
「?」
「ミスター・ポッターたちが練習から戻ったみたいよ。」
ルームメイトにそう伝えると、彼女たちは「そうなの?じゃあブラックさんたちもいた?」と目を輝かせた。
ルーム・メイトとはなかなか安定した関係を築けていた。5年間も一緒に過ごせば、彼女たちも単独行動が多い私に慣れてくれた。
たまに、一緒に勉強することもあるし、彼女たちは親切だった。だから、私もルームメイトの3人には警戒心は抱く必要もなく穏やかに接していた。
「いましたよ。もうちょっとすれば、他の選手も戻ってくると思います。」
そう告げれば、彼女たちは嬉しそうに「行ってくる!」と部屋を出て行った。
どの学年でも、クィディッチ選手というのは非常に人気があった。

「ヴィーナ、貴方も行かない?」
そう誘ってくれる金髪の彼女に「今日は先に休む」と笑いかければ、「具合でも悪いの?」と心配してくれるのだ。
慌てて否定すれば、「明日はデートなの?」とニヤリ、と笑われた。
「違うけれど」
「だって、ホグズミード行があるじゃない。行かないの?」
「行ったとしても、相手がいないんじゃ、デートにはならないでしょう」
そう笑えば、彼女は「ヴィーナはもうちょっと、周りを見たほうがいいんじゃないの?」と言われてしまった。
おやすみなさい、と手を振って部屋を出て行ったルームメイト。
私は、小さく息を吐いた。

翌日、朝食をとるために大広間に向かうと、スリザリンのテーブルでレギュラスを見かけた。朝早くからクィディッチの練習の為か、グリーンのユニフォームを着こんでいて、2、3人の女子生徒と一緒に談笑しているのが見える。

栗色の巻き毛の上級生、あの人はたしか監督生だった気もする。
ショートヘアの彼女は、純血の名門の出身で。
そして背の高い3人目のあの子は、スラグホーン先生のお気に入りの一人だ。
『兄のシリウスの方が女子ウケがいい、』とルームメイトは言っていたけれど、レギュラスも負けてはいないと思う。ひいき目を抜きにしても、レギュラスは人気がある。
彼が内心では、自分に群がってくる女子生徒をどう思っているかは分からないけれど、決して自分の立場を悪くするような発言も、態度も表には出さないんだからモテるに決まっている。
もの静かな雰囲気と、自信を漂わせる振る舞いは純血のお嬢さま方の憧れでしょうね。

現に、私もレギュラスに憧れていた。
同じように、純血の家に生まれても、こうも違うのかと。親の言いなりだ、というわけじゃない、自分に誇りを持っていて、なおかつ家族を大切にしていると思った。
そんな彼と私の関係は、恐らくまだ誰も知らない。
スラグホーン先生のパーティーに居合わせた人たちも、そこまでは考えていないだろう。お陰様で、私はレギュラスの取り巻きに鋭い目で見られることはなかった。

「ねぇ、レギュラス。箒の調子はどう?」
「グリフィンドールがまた図に乗ってるんだから、また鼻先でスニッチとってやりなさいよ!」
「グリフィンドール戦が終わったら、しばらくはオフなんでしょう?次のホグズミードには一緒に行かない?」

甘く、優しい声でそう笑う美人の上級生。
私はそれを耳に入れながら、少しだけ、本当に少しだけ寂しくなった。
レギュラスは、囲まれていて私のことなど見ていないのはわかっているし、見ていたとしても正面切って私に何かを示すこともないだろう。
遠い存在なのだから、仕方ない。
まだ朝早く、人の少ない大広間に彼女たちの華やかな声は嫌でも耳に入った。

彼女たちは、本当に綺麗に笑っていて、3人ともレギュラスの隣にいてもちっとも引けをとらない。地味で、話上手じゃない私とは大違いだ、とどんどん悪い方へと思考するのは私の悪い癖だった。

「箒の調子も上々ですよ、キーパーが少し怪我をしましたが、試合までには治ると思います。」
落ち着いた、その声はレギュラスのものに違いなかった。
「グリフィンドール戦はいつも白熱しますから、期待に応えたいと思いますよ、ミス・コーカード。」
物腰穏やかなその声に、私は・・・たぶん、少しだけ落ち込んだ。
婚約者とはいえ、両親が勝手に決めたことであって彼が私を好きであるわけではない。だから、他の女の子に優しくするのだって間違っていない。
ただ、嫉妬していた。
勘違いも甚だしい、とはこのことである。

私はトーストを一枚食べて、いろんな意味でお腹いっぱいだった。

そう言えば、図書室から借りた本の期限が今日までだったかもしれない。と、頭の片隅で思い出して立ち上がる。
そのとき、チラッとスリザリンのテーブルを見るとレギュラスはいつものように微笑を湛えて背の高い彼女に向けて口を開いていた。

「せっかくのお誘いですが、次のホグズミードは先約があるので。」
「あら、どこのお嬢さんとデート?妬けるわね。」
彼女が口を尖らせ、拗ねているのを見てからレギュラスは立ち上がった。
「貴女とデートなんてしたら、僕がマックスに殺されてしまいますよ。」
慣れたように受け流すレギュラスに、ホッとした私は狡いのだろうか。
しかし、先約というのがまた別の誰かとデートだというならばモヤモヤが増えただけなのだけど。
「では、先輩方。僕は失礼します。」
そう言ったレギュラスは、出口へ向かうのだろう。鉢合わせしても、どうせ他人のふりなのだから、どうってことはないのだろうけど。

玄関ホールの広い空間に出たときに、レギュラスが私を振り返った。
やはり、気づいていたようだ。

「おはよう、ヴィーナ。」
「・・・おはようございます」
レギュラスは、静かにあいさつをして口元だけで笑った。
「調子は?」
「元気ですよ、レギュラスも朝から練習?」
「そうだよ。試合が近いからね」
何気ない会話に、私は少しだけ安心した。
特に用事もないし、引き留めても悪いからと思って「それじゃあ」と階段を上ろうとした時だった。彼が、私の手を取って引き留める。

「さっきの会話、聞いていましたか?」
「え?」
レギュラスは、静かに尋ねてきた。殺気の会話、というのはスリザリンの女子生徒との会話だろうか。
「聞こえて、いましたけど。・・わざとじゃないです、」
聞き耳を立てていたと思われたくなくてそう付け加えればレギュラスは「聞いていたなら話は早い」と笑った。

「次のホグズミードはもう誰かと約束したのかい?」
「・・・え?」

レギュラスは「僕とデートしようか」と小さく笑って、あっというまにクィディッチ競技場へと向かっていってしまうのだった。


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