ぼくの女神さま | ナノ

磨けば光る

約束の場所に現れたヴィーナ。
しっかりとパーティーにふさわしい装いの彼女を見つけると、僕は息をついた。
「ヴィーナ」
名前を呼べば、彼女はやや頬を赤く染めて「ごめんなさい、待たせてしまいました?」と慌てていた。塔の上にあるグリフィンドール寮からここまで来るのに、急いでくれたのだろう。
「大丈夫」と、声をかければ彼女はおずおずと僕を見上げて、ようやく目があった。

「とても、素敵です」
照れたように、そうこぼした彼女。お世辞かもしれないものの、彼女が小さく微笑んだのが可愛らしいと思ってこちらの表情も緩んでしまう。
「それは、僕のセリフですよヴィーナ」
「え?」
階段を駆け下りてきたのか、跳ねていた彼女の髪を耳に掛けてあげた。
「とてもお似合いです。・・・だから、もっと自信をもっていいと思うけれど?」
ヴィーナは顔を赤くして「ありがとうございます」と小さく言った。



スラグホーン先生の開くパーティーは、なかなか人選に個性が出ている。
と、いうのも彼のお気に入りの生徒ばかりが出入りしているからというのも理由の一つだろう。お気に入りの基準はいまだに理解しかねるものの、気に入られておいても損はないのだ。
「ああ、レギュラス!」
「こんばんは、スラグホーン先生」
ヴィーナを連れて、先生のところにあいさつに行けば彼は蜂蜜酒のグラスを持ちながらにこやかに「こんばんは」と頷いた。
「来てくれたのか。先日のクィディッチは見事なものだったよ!」
「ありがとうございます」
「おや、お連れは・・・・」
スラグホーン先生は、僕とヴィーナを交互に見た。

「ヴィーナ・アルバーンです。僕のパートナーです」
そう紹介すれば、スラグホーン先生の目が一瞬驚いたように見開いた。そしてそのあと「あぁ!」と満足そうに笑う。
「ミス・アルバーン!ミネルバの寮の子だね?」
「はい、スラグホーン教授。今夜は、ミスター・ブラックに声をかけていただいて」
「もちろん歓迎するよ!楽しんでいくといい」
スラグホーン先生はにっこりと笑って、ヴィーナの肩を叩いた。
ヴィーナはどこか戸惑ったような顔をしていた。


そのあとは、パーティーに招待された生徒同士で話をしたり、食事をしたりと、滞りはなかった。
「アルバーンって、ヒーラー一家の?」
レイブンクローのアルバート・マーレイは、ヴィーナに向かってそう尋ねた。
ヴィーナはその尋ね方が気に食わなかったのか、やや眉をひそめながら「そうです」と頷いた。
「そうか、せっかく由緒正しい家柄の生まれなのに君はあまり目立たないタイプなのかな?」
マーレイはそう笑った。ヴィーナは彼の意図がとれないようでなんと返事をしていいのか分からないようだった。
「マーレイ、僕のパートナーを口説くのはやめて欲しい」
僕がそう笑ってヴィーナを引き寄せれば、彼は「独り占めかい?ブラック」と苦笑を漏らしたのだった。
ヴィーナと僕が婚約したことはあまり広まっていない。進んで広めようとも思ってないけれど。

「ミス・アルバーン、こんどの長期休暇はぜひ我が家にも遊びにおいで。歓迎するよ」
マーレイはヴィーナにそう言い残してスラグホーン先生の方へと歩いて行ったのだった。
「・・・・彼は」
「レイブンクローの4年生のアルバート・マーレイ。貴女と同じ学年の生徒です」
「廊下で見かけたことはあります」
ヴィーナは彼がいなくなってホッとしたように胸をなでおろしていた。
「彼は気に入らなかった?」
そう尋ねると、彼女は「そういうわけではありませんけど」と困ったような顔をした。

「魔法界の歴史のある家系・・・純血と呼ばれる家は多くはない」
「ええ」
「マーレイの家もその一つ。そういう家柄は、魔法省や各分野の高等機関に大きな影響を与えるだろうね。マルフォイ家がいい例だ。」
そう話をすれば、ヴィーナは頷いた。
「こんな言い方は良くないかもしれないけれど、人脈というものはこの先必ず必要になる。家でのパーティーがそういう場の良い例かな。」
「なんとなく、わかります。」
ヴィーナは俯きながら、部屋の中央にいるスラグホーン先生を囲む数人の生徒を見た。

「すぐに、とは言わない。けれども、こういう場にも、人にも慣れてほしい。いずれ、必要になることだから」
そう告げれば、彼女は頷いた。

本を愛し、騒音を嫌う彼女にとってくだらない雑談に付き合いながら、人の顔色をうかがうことは苦痛なのだろう。この場を楽しめるようになるには、時間がかかるだろうし、もしかしたらそんな日は来ないかもしれない。
「あなたは」
「?」
「レギュラスは、こういった催しは好きなんですか?」
ヴィーナはそう尋ねてきた。
「好きでも、嫌いでもない。けど、参加しないよりはしたほうが勉強になることもある」
僕のその答えに、ヴィーナは「そう」と小さく言った。

「すぐには」
「え?」
ヴィーナは僕を見上げて、唇を微かに動かした。
「すぐには、貴女の望むようにはできないかもしれない・・・・けど、努力はします。だから」
そこまで言って、ヴィーナは言葉に詰まったようだった。
けど、なんとなく言いたいことはわかるのだ。
健気すぎて、僕が彼女を苛めているような気がしてしまう。

彼女がもっと気位が高くて、高慢で我儘なお嬢様だったほうがもしかしたら気は楽だったのかもしれない。僕の言うことをそのまま受け入れる従順なヴィーナを、母や父が気に入るのも理解できた気がした。利用するには、最高の人材だからだろう。
「慣れるまでは大変だろうけれどね、お手伝いはしますよヴィーナ」
そう言って上げれば、彼女は安心したように笑った。
「でも、一つ言わせてもらえば」
「?」

貴女は自分が思っているよりもチャーミングだし、アルバーンというブランドも持っている、それに僕の婚約者なんですよ。だからもっと自信をもって。

そう彼女だけに聞こえるように伝えれば、ヴィーナは目を大きく開いて僕を見ていた。
「笑っていたほうが、貴方は素敵だと思うな」
微かに顔を赤くした彼女に「行きましょう、向こうにいる友人を紹介します」と笑みを漏らせば彼女は「えっ?えっ?」とあわてていた。
その反応に笑いをこらえながら僕は何気なく彼女の背を押すのだった。

これからもっと、彼女は変わっていくのだろう。


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