小説 | ナノ

 現地時間、深夜一時。
 日の出ている時間に活動するジョースター一行にとって、この時間に起きているのはかなり夜更かしの部類に入るだろう。ましてや明日は自分が車の運転をすることになっているのに。
 分かっていても、一度目が覚めてしまったものは仕方ない。布団の中で瞼を下ろしていてもまったく寝付けない。
 こういうときは体力を使い切ってしまうのがいいんだと理由をこじつけながら、ポルナレフはズボンと下着を下ろした。
「……ごめんな」
 声にならないか細い音が、深夜の個室に響いて消えた。他に誰がいるわけでもないのだからその謝罪は闇夜に溶けて消えるしかない。
 既に半勃ちになっているそれをしごきながら目をつぶる。ここに至るまでオカズはもっぱらペイチャンネルに映る各国の裸の美女だったのだが、最近はいつも妄想で事を済ませている。
 乱れる日本の学生服に興奮を覚えるフランス人だなんて、なんて変態なんだろうと自分でも分かっている。罪悪感もないわけではない。それでも、公子とのセックスを妄想しながらでないとイケなくなってしまったのだ。
「……公子っ」
 あふれ出す精液を全てティッシュで受け止める。これを丸めて捨てて、着衣を直すときが一番つらい。
 微妙に冷静になってしまった頭で、幼気な少女を性の対象として見てしまったことを悔いながら今度こそ眠りについた。

「はよーっす」
 待ち合わせ時間から十五分遅れてロビーに現れたポルナレフを全員が冷ややかな目で見つめている。
「またか」
 花京院は短くそう言い捨てるとため息をつきながら車へ乗り込んだ。
「ポルナレフ、今日一日運転な」
「だーもー!悪かったって!!」
 助手席にジョセフ、後部座席は公子を挟む形で高校生。だがこの座席形式になるのを見込んだうえでポルナレフは運転役を得るためにわざと遅れて出ているのだ。
 ここならば、バックミラーに公子の顔が映る。
(とはいってもまぁ普通に寝坊したのもあるんだけどな)
 起きたのは集合五分前だった。慌てて荷物を掴んで出れば十分間に合う時間ではあったが、寝ぐせのついた頭で公子の前に出たくない。念入りに髭を剃って、歯を磨いて、顔も洗うし髪もセットする。まるで思春期じゃあないかと思いつつ、エンジンキーを回した。

 昼時になり適当な街で車を降りる。最近食べるものの味付けがすべて似たようなものになってきているので文化の違う一行はそれぞれの祖国の味が恋しくなっていた。
「味噌汁と漬物と白米」
「バーガーとポテトとコーラ」
「ほうれん草のキッシュ」
「だし巻き卵」
「カレー」
「ちょっと待て、カレーって今もスパイスの匂いしかしないようなとこで何言ってんだ公子!」
「違うのー。バーモントカレーとこっちのカレーは違う食べ物なのー。温泉卵も乗せるし」
 結局やはり今日もカレー(本格的な方の)を食べる一行。しかしバーモント甘口派の公子はここ数日の食事が本当に苦痛だった。
 とにかく何を食べても辛い。飲み物もクセのあるものが多いがミネラルウォーターは高い。ジョセフが遠慮せずにと水を頼むのもなんだか申し訳なかったのだ。
「公子、今日はカレーの前に牛乳を飲んだらどうだい?牛乳に含有するたんぱく質が粘膜を……」
 と、花京院の蘊蓄を話半分に聞きながらとりあえずそれを試すことにする。何故辛さに牛乳が効くのかはよくわからなかったが過程や方法なぞどうでもよかったのでとにかく口に含んでみる。
「どう?」
「………………おぶふぉ」
「だめかぁー」
 結局現地のスパイスに敵わず口から牛乳を漏らしてしまった。
「同時に食べろって意味じゃなくて、先に牛乳を含んでからだね」
「のみこめない……」
「がんばれ」
「おいおい公子、垂れてるぞ」
 ポルナレフがポケットからハンカチを出して公子の口を拭ってやる。
「ポルナレフ。そのハンカチ前に僕が貸したやつだろう」
「あ、そうだ。だって俺ハンカチなんて持ち歩かねーのにおかしいと思ったぜ」
「ごめん花京院。汚しちゃって……」
「いや、それよりポルナレフ、君に貸してから洗っただろうな。使用済みのもので公子の口を拭いたわけじゃあないよな」
「そこんとこは大丈夫だって!」(ごめん本当は洗ってるわけねーんだわ)
 食事を終え、また車の移動へと戻る。ただでさえ移り変わりのない景色を、砂塵が曇らせるため余計に退屈を煽る。
 眠気に負けた高校生たちが船をこいでいる様子をチラチラとミラーで見ていたポルナレフが路肩に車を寄せた。
「ジョースターさん、お宅のお孫さんが公子の肩にダメージを与えてますよ」
「お。承太郎、お前な、ただでさえ図体がデカイんじゃからもっと気を使え。なんのために窓際に座っとんじゃ。窓にもたれなさい」
「ん……」
 ジョセフがスタンドで承太郎の頭をどかすと、再びアクセルを踏んだ。
「しかしポルナレフ、よく気づいたの」
「……まぁ、ね」

 今夜は限界が近かった。部屋のキーを手に入れるなりポルナレフはさっさと自室へ引きこもる。
 昼間にみた、白い液体を口から垂らす公子の姿が目に焼き付いて離れないのだ。
(くそっ、昨日ヌいたばっかなのに)
 すでに勃起しているものを取り出し、乱暴に擦る。先端を公子の赤い舌が舐めているところを想像するとすぐにもイきそうになる。
(今日はもう、さっさと出しちまうか)
 ベッドの横のティッシュをちらりと見た瞬間、部屋の扉を叩く音がした。反射的に下半身を隠しながら返事をするがその声は少し震えてる。
「だ、誰だ?」
「私だよ。公子」
「え!?ちょ、ちょいまて。まだ開けるなよ」
 わざとらしく、着替えようとしていたフリをしながら扉を開けた。
「ごめんね急に」
「いや。どした」
「あのね、ハンカチ。ポルナレフも一枚持ってた方がいいと思ってさっき買って来たの。お昼使ったやつは洗って花京院に返したから」
 大事なものを扱うように両手でハンカチを持ってこちらに差し出す。その女性らしい仕草に、ポルナレフは最低の考えをぶつけてしまっていた。
 この差し出した手の中に精液を出して、それを公子が口にするという妄想だ。
(俺はもう……ダメだ。何を見ても全部、公子を傷つけたり汚したりするようなことしか考えられねぇ)
 愛する女性という以上に、彼女のことは旅の仲間だと思わなくてはならなかった。命を懸けた旅に私情を挟むことがどれだけ危ういことか、またどれだけ礼を失することかも分かっていた。
 だけど、際限なく沸き起こる性欲に抗えない。卑猥な妄想で公子をぐちゃぐちゃに押しつぶしてしまうまで、止まることが出来ない。
「……なあ公子。ちょっと部屋入ってけよ」


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