小説 | ナノ

 敵スタンドの能力は、精神に異常を来すという回りくどい攻撃方法だった。真正面からぶつかる超パワー型である承太郎、ポルナレフ、そしてアヴドゥルはこういった攻撃が苦手で、敵のかく乱作戦に一行はまんまとハマってしまっていた。
 精神的に不安定にさせることで身動きをとれなくするという攻撃に最初に引っかかったのは、ジョセフだった。何せ今一番このメンバーの中で大きな不安を抱えているから真っ先に狙われたのだ。
「ホ、ホリィ……娘の死に顔を見るなんて、親として最大の不幸じゃ」
 震えながら動けなくなったジョセフに花京院がつきながら、ハイエロファントで援護射撃を行う。その範囲から逃れようと敵は入り組んだ街の中へと消えて行った。
 追おうとする花京院の足をジョセフがしがみ付いて止める。不安から、孤独が恐怖へと変貌してしまったのだ。一撃で二人を足止めした敵を追ったのは残るメンツ。承太郎、ポルナレフ、アヴドゥル、そして公子。
 厄介な能力ではあったが、戦ううちに吉兆が見えた。前線に立っていくらか被弾している承太郎と公子にあまり効果が見られないのだ。
「すげぇなアイツら。俺もう足が止まりそうなくらいビビりあがってきてんだが……若さか?」
 後方を追うポルナレフとアヴドゥルが前線の状況を確認しながら人ごみをすり抜けていく。
「かもな。だが若さ故の精神の強さというのは固く、そして脆い。我々にもダメージが蓄積していく感覚がある。ひょっとすると……あっ」
 敵と高校生二人が死角に潜り込んだ。追跡の足を速めようにも、承太郎たちのスピードに本体が追い付けない。
「クソッ」

 敵と対峙した公子は、今までのジャブのような小さな攻撃とは違う本気の一撃をマトモにもらってしまっていた。だが承太郎は振り向かない。このまま隙のできた敵を一気に片付けようとラッシュを繰り出したのだ。
「オラオラオラオラオラオラオラ!」
 だが手ごたえがない。まるで岩盤を殴っているような感覚に舌打ちしつつ、吹き飛ばされた敵を追った。その前にちらりと公子を振り返ると、小さくなってカタカタと震える姿が目に入った。
 それでも、承太郎は敵を優先する。一人取り残された公子はその場にうずくまったまま動けなくなった。
 今まで抱えてきた不安が一気に噴出し、まともな思考がかき消されていく。ただ何もない眼前を恐れるばかりの公子に、見知らぬ男が声をかけた。
「やあ、公子ちゃん」
 その男は傍らにスタンドを連れている。盾をいくつも身に着けているような不思議な形のそれは、形状からして先ほどの承太郎のラッシュを受け止めた敵の仲間だということは簡単に推理できる。
 だがそれは正常な考えが出来る状態であればの話だ。
「不安や恐怖から君を解き放ってあげよう。さあ。俺に、いや、DIO様に付いていけばそれらは全て取り除かれる」
「た……たすけて……」
「ああ、助けよう。君を救えるのは俺たちだけだ」
「公子っ!騙されるんじゃねえっ!」
 その叫びのような大声と共に剣の一撃を放つシルバーチャリオッツ。しかしそれは縦によって防がれる。ラッシュに耐えきり盾を下げて攻撃に移ろうとした敵に、本体であるポルナレフの蹴りが直接顎を叩き割った。
「しっかりしろ、お前の分の不安は俺が一緒に引き受けてやる!」
 敵が眼前から消えても震えが止まらないならと、ポルナレフは抱きしめてそれを収めようとした。
「……大丈夫だから」
「も、もうへーき……たぶん、承太郎がやっつけた、ような気がする」
「そうはいっても植え付けられた不安はそうそう拭えないだろ。しばらくこうしてろ」
「うん」
 恐怖自体は去った。だがまだそこにあったときの感触が心の中に残っている。それを委ねるように、公子はポルナレフの胸元に顔を埋めた。

「アヴドゥルさん。ご無事でしたか」
「あっ、ああ……花京院、ジョースターさん」
「急に震えが止まった。誰かが敵を倒したと思って合流したんじゃが」
「恐らく承太郎でしょう。向こうの建物の裏にいると思います、行きましょう」
「ポルナレフと公子は?」
「……さあ。多分先に合流してると思いますよ」
 ジョセフの背中を押して承太郎が消えて行った方向に誘導する。だがそれはその背後にいるポルナレフと公子の抱擁から目を背けたかったからだと認識出来るほどには、アヴドゥルは自分の気持ちに気が付いていた。



 その日の夜、鬱屈したものを抱えたアヴドゥルはベッドに潜る気分にもなれずにホテルの中を散歩していた。ロビーに出たときに何やら怒鳴り声が聞こえそちらに目を向けると、道中一緒に旅することになったアンと観光客が何やらいがみ合っていた。
「どうしたんだ」
「児童買春の常連っていうクソ野郎を追い払ってるだけ」
「何、お前たちこの子に手を出そうというなら俺が容赦せんぞ」
「ひっ」
 男が消えたところで呆れたような顔でアンを見ると、彼女はにやりと笑って応えた。
「サンキュー。ま、一人でもなんとかなったけどさ、助かったよ。お礼に飲み物くらい奢ってやるよ。これはアタシの自腹だからね、有難く思いなよ」
「私を子供にたかるような男だと思ってるのか」
「人の好意を素直に受け取れないのはダメだよー。そうだ、じゃあこのアン様がひとつ恋愛相談にでものってあげようか」
「占い師の私にそれを言うのか?」
「公子とのことを見る限り、自分自身を占うのは不得意そうだと思ったから言ったまでだけど」
「なっ!!」
 結局、ロビーでジュースを飲みながら少し話をすることになった。
「あのさぁ、もうちょい素直になった方がいいんじゃない?何でそんな遠慮する必要があんのさ」
「君には詳しいことを話せていなかったが、この旅は人の命に関わるものなんだ。そんな場で自分の欲求を満たすためだけに……」
「あー、はいはい。その手の話は耳タコで聞き飽きてるからパス。旅が人の命に関わるとか言うけどさ、旅してる時間はアヴドゥルさんの命そのものでしょ。自分のために使うことがいけない時間なんて、自分の人生において一秒もないから」
 気ままに、自由に旅し、その言葉を実行するアンがいうと妙な説得力があった。
(それにしても妙な貫禄があるな、この子供は……)
「ところでそう言うってことは旅が終わったら告白するつもりだったの?それともどっちかがどっちかの国に永住でもするの?」
「え?」
「だって二人は国籍が違うんでしょ。旅してる間以外いつ想いを確認しあうの?」
「そ、それは……」
 よく考えなくとも当然のことだ。旅の間はせめて、と思っていても、旅が終わればそれぞれの国でそれぞれの生活に戻るだけだ。いや、それよりも二人とも無事に旅を終えられる保証すらない。今敵襲にあって死なないとは言い切れない状況だ。
「言葉に詰まるってことは成就させる気はさらさらないわけ?ちょっとポルナレフさんを見習ったら?あそこまでお尻を軽くしろとは言わないけど」
(ポルナレフ……)
 アンの発言に他意はなかったのだが、その名前にどうしても昼間の戦いを思い出してしまう。
 アヴドゥルもあの精神攻撃を少し受けたので公子がどうしようもないくらいに不安になるのは分かる。そしてそうなった公子を放っておくことが、ポルナレフの性格では出来ないということも。
(だがそうなったことで互いに何も意識していなかった関係が進展してしまったら?公子が元よりポルナレフのような明るい性格の男が好みだったら?)


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