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 波紋の持久力を試す修行!人呼んで『地獄へ昇る柱!』……の修行がようやく終わったところである。
 今までの修行の総決算として師範代との一対一の実践だけでなく、かつて苦戦した修行を難なくこなして見せることも含まれていたのだ。
「予定通り定刻で終えることが出来ましたね」
 スージーが懐中時計の蓋を開いてリサリサに見せていた。
「ですが残りの体力はどうかしら。今日の休息で回復できない程消耗しているようでは話になりません」
「余裕ですよ、先生。なぁ、公子だってそうだろう」
「あ、あぁ……」
 言葉通りシーザーは余裕があるようだったが、公子のマスクの下は少し呼吸が乱れそうになっている。
「……ああ、公子。明日の師範代との闘いの前にあなたのマスクを取っておきましょう」
「え!?」
 顔の半分を覆い隠すゴツいマスクが、リサリサによって取り外される。食事、歯磨き以外に外されることのなかったそれは、シーザーの前で公子が久々に素顔を晒すことになった。
(あれ……コイツ、こんな顔だったか……?)
 思えば初対面の時からあまりきちんと公子の顔を見ていなかったし、公子はよく補習を受けていて食事時間がバラバラだったのでマスクなしで対面するのはもしかすると初めてかもしれない。
「二人とも、まずは入浴してきなさい。ひどい恰好ですよ」
「リサリサさまぁ。あの修行のあとじゃそれは仕方のないことなんじゃ?」
 おそらくリサリサならば弾く波紋であっという間に油を落として見せるのだろうが、今そんな精密なコントロールを要する技術を行うことは体力的に無理だった。
 スージーを連れてリサリサはさっさと邸内へと戻っていく。
 ヘルクライムピラーの修行後は特別な場所で身を清める必要がある。ものすごく地味な話になるのだが、油をそのまま生活排水に流すことはここ水の都では厳しく制限されているのだ。
 まずは大雑把に紙でふき取り、生活圏から離れた水場で一度体を洗う。何せ油は臭いがすごい。このまま風呂を使用すると風呂掃除が大変だしいつまでも悪臭がこびりつく。
「おい、行くぞ」
「あ、ああ……」
 以前この塔をクリアしたときはゴール時間がバラバラだったため水場の使用も別々だった。だから気に留めていなかったのだが。
「先使えよ」
「あ?時間もねぇんだしお前も入れよ」
 使用時間をズラそうと提案した公子を川に叩き落す。足裏まで油でぬめっていたため踏ん張りもきかず、波紋を扱う程体力もないため水底にどぷんと落ちた。
 そこから浮かび上がって来た公子の苦しそうな顔を拝んでやろうと、シーザーはニタニタしながら呼吸を待っていた。だが水から現れたのは、
「ぷはっ!な、なにしやがるっ!」
 普段と違ってマスクがない、そして普段まとめて掻き上げている前髪がぐしょぬれになって顔に落ちてきている。そこからしたたる水に、思わずシーザーはドキッとして顔を逸らした。
「あ……いや……」
「おい……そのままそっち向いてろよ」
「は?」
「わー!こっち向くなっ!」
 思わず振り向いたそこには、体を腕で懸命に隠す公子の細いシルエットがあった。その手の下に隠すものが何なのか、シーザーはハッとなり手を指し伸ばした。
「公子……お前……」
「な、なんだよっ!」
「怪我をしていたんなら言え!明日の試験は大丈夫なのか?さっき叩いたのが響いたりしてないか!?」
「は?」
 公子は胸の膨らみを運動の邪魔と思っており、日頃からさらしを巻いている。シーザーにはそれが包帯に見えたようなのだ。
「ちょっと見せてみろ」
 結び目に手をかけられる。さすがにこのまま乳房をあらわにしたくないと後ろを向くと、胸を締め付けていた圧迫感が解放されたように感じた。シャボンカッターで切り落としたのだろう。どちらにせよ油まみれになっているためもうこのさらしは使い物にならなくなっていたので構わないのだが。
「背中……は無傷か。前か?」
「み、見るな!」
「……分かったよ。傷は戦士の勲章かもしれんが、人によっては負傷が恥じと思うのも理解できる。まあ背中くらい流してやるよ」
 ここにはシャボン玉の原料となる石鹸と水が十分に用意されている。治癒の波紋を流したシャボンが公子の疲労と汚れを洗い流していく。
「ズボンも脱げよ」
「絶対いやだ!」
(コイツさては……そうか。自信がないんだな。まあ仕方ないか、こればっかりは)
 全身を這うシャボン玉に公子はくすぐったさを覚え思わず甲高い声が出そうになる。だがそんな女っぽいことが気恥ずかしくて、公子はこの状況にひたすら耐えていた。
 一方の兄弟子はまったく気づかぬまま、勘違いを加速させてついに公子の体に手を触れた。


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