小説 | ナノ

「……い……おい、おーいおいおい」
「んっ……じょ…………仗助か。あれ、私寝てた?」
 付き合って何日だの、何か月だの。そういったことを気にするような人ではないのは、単に彼女の性格がそうだからなのか。それとも、大人の女性というのは過ぎ去った年月を数えるのを辞めてしまうからなのか。
「めっちゃ寝てました」
「う……ごめん、せっかく会えたのに」
「いいっすよ。俺はガクセーなもんで社会人の辛さってやつ分からないし。こういうのは苦しい方に合わせてかないと、付き合ってる意味ないっしょ」
「ん。ありがと。でも、やっぱり人と会ってる最中に居眠りとはちょっと情けないね私」
「反省してる?」
「してますしてます」
「じゃあさ」
 冷蔵庫に常備してある缶コーヒーを渡す。彼女は起き抜けにカフェインを流し込むのが好きなのは知っている。何度も二人で夜を明かして来たから。
「誰の夢見てたのか、教えてくんない?」
「え?」



「……うーわ。顔傷だらけ」
「すまねぇ」
「なんで承太郎が謝るの。あんなん避けようもないでしょ。いきなり目の前がナイフだらけなんだもん」
 カイロで戦い明かしたあの夜を超えた先に待っていたのは、人間の勝利だった。血を吸い、魂を喰らい生きながらえる化け物を殲滅したのだから、この傷は顔についていたとしても勲章として誇れるものだ。だから、別に消えなくとも構わない。
「せめて親に説明するときは俺を連れてけよ」
「なんでまた」
「……責任を取る男がいたほうがいいだろ」



(なんだって仗助といるときに承太郎の夢なんて……)
「めっちゃうなされてたし」
「あー、うん。昔死ぬかと思ったようなときの夢をね。まだたまに見ちゃうくらいに、体が恐怖を覚えてるみたい」
「恐怖?のわりにすっげぇ甘い声出してたけど。まるで、最中、みたいな」
「……そりゃ寝言ってそうなるよ。言っておくけどそれなら仗助こそ「億泰ぅ」って語尾にハートマークついちゃうような寝言言ってたからね!」
「妙に合理的な返しすんなよ。あのさぁ、言わないんならいいけど、聞いちまったもんはもうどうしようもねぇからさ……」
 いつまでも受け取らない缶コーヒーを放り投げると、ベッドの上にもう一度倒れこませる。暴力と言っていいほどの乱暴な力で。
「やっぱ承太郎さんと、付き合ってたの?」
 そう問いかける瞳には悲しみも怒りもなく、まるで機械のように何の意思も宿っていなかった。どう答えてもきっと、痛い思いをしてしまう。けれど構わない。もうどんなに傷ついたって、彼は跡形もなく消してしまうから。顔の傷さえも。


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