小説 | ナノ

 DIOの館に集うスタンド使いにここにいる理由を問えば大きく二つに分かれる。忠誠と、見返り。
「この廊下にポンと置いてる壺だって一万五千ドルくらいにはなるだろうな」
 ダニエルが奇妙な形の壺を持ち上げて言った。ただのギャンブラーがそこまで目利き出来るのかと思うかもしれないが、担保にと数々の美術品を巻き上げてきたので案外そういった知識に詳しかったりするのだ。
「だったら何で金目当てのヤツらはさっさと適当に品物を持って逃げないの?」
「そりゃ売却ルートから足が付くだろうからね。DIO様に一生追われ続けるなんて想像してごらんよ、恐ろしい」
「あー」
「そういう公子。君のその質問、まるで自分は忠誠心からここにいるのだと言っているように聞こえたが」
「あら。何かおかしな点でも?」
「フ……。まあいい。それより、面白いボードゲームが手に入ったんだ。今度どうだい。君との駆け引きは不思議なくらいにスリルがある。すぐに顔に出るから見破りやすいが、逆にこっちの手の内も見透かされているような気がしてね」

 公子は見返りが欲しくてここにいるタイプのスタンド使いだ。だがほかの連中と違って数億程度の金には興味がない。公子は、金を積んでも到底お目に掛かれない、己の知的好奇心を満たしてくれるものを求めてここに身を置いていた。
 その点で言えばダニエルと気が合うのも頷ける。彼もまた金で買うことが出来ないスリルを求めてここにいるのだ。
(悪いけどゲームの約束はキャンセルよ。今夜キメることにしたの)
 公子の狙いは、DIOの研究記録である。スタンドとは己のそばに立つ精神のヴィジョン……ということ以上にその存在を理解している人間は少ない。
 この特別な力はちゃちな殺しの道具にしたり自分のその場の欲求を満たす程度に使うものではないと公子は考えているのだ。そこに関してはダニエルよりもDIOの方が考えが合う。
(DIO。確かにカリスマ性はあるしスタンドも強力。だけどそういう、さも帝王という人物が頂点に立つってのは面白みがないのよ)
 公子は自身もスタンドも非力であった。だが、強者からすべてを掠め取る術に長けていた。
(力関係がそのまま序列になるわけじゃない。カードゲームだってよくあるでしょう……最弱のカードだけど、最強の数字にのみ勝つことが出来る。私は、それ。ジョーカーなのよ)
 地下室への階段を下りていく。ここはケニーGの幻覚の効果で普通の人間はおろかスタンド使いでも行くことが出来ない場所だ。そのため鍵の類は一切ついていない。
 だが公子のスタンドならばそれを看破できる。公子のスタンド、ジョーカーの能力とは、偽りを見抜く力である。
 嘘、隠し事、そういったものに反応する、それだけ。スタンド自体も非常に小さく、ペン一本まともに持ち上げられない。心理学を学んでいる人間より若干役に立つ程度の、特別でも何でもない能力。
(だからこそ私は自分のこの力をさらなる高みに持っていく必要がある。力が欲しい。誰にも支配されないために。全てを支配するために)
 スタンドが小さいので発動を悟られる心配がない。そのため公子はこの館であらゆる人物の嘘と欺瞞を読み取って来た。そこでケニーGからこの地下室の存在と、エンヤ婆から研究のことを知る。
(けど不思議。DIOは嘘をつくことが一度もなかった。あえて何も言わない、ってのはあったけど、私を騙そうとしたことはとうとうなかった)
 だからだろうか、この地下室に侵入するためにDIOを騙したのが若干心に引っ掛かりを作った。
 彼の友人であるプッチの筆跡を真似て手紙を出し外へとおびき寄せたのだ。この地下室の存在はヴァニラとて知らないので、誰の邪魔もなく探索が出来る。ここまでの往復時間を考えて、明日の日没までに館を出て行けば捕まることは決してない。
 禁断の知識を求め、最下層で眠ったようにそこを動かない扉を押し開けた。
「……っ!?な、何で……」
 求めていた物は、目の前にあった。目の前にいるはずのない、DIOの手の中に。
「あの手紙から、お前の匂いがした」
(嘘じゃない。でもそんなの、同じ建物内にいるのだからおかしなことじゃないでしょう)
「加えてここ最近、妙にお前がそわそわしていた」
「それだけの理由で……?」
「嘘を見破るのは得意なようだが、その分お前自身のその力が退化しているようだな。考え事が顔に出過ぎている。ここを調べるつもりがあったかどうかまでは分からなかったが、私に対してよからぬことを考えているのが明白だった」
「……だから、盗まれるとまずいものの前で待ち伏せていたの?何故すぐに殺さないの?」
「ほう、これが目的だったのか」
 と言いながら手の中の本をサイドチェストに置く。
(あ。またやってしまった……)
「言わなくていいことを言ったという顔をしているな。完璧な女と思わせておいてそういった間抜けなところがあるのがいい。実に」
「し、質問をはぐらかさないで。なぜ殺さないの。嘘をつかずに答えて」
「……殺すより、いい方法があるからだな」
(嘘じゃない。確かに嘘はついてないけど、本当のことを言ってるわけでもない)
「ともかく、主を謀った罪は重い。少々お仕置きをしないといけないようだな」

 公子は、その何もかもを見透かせる能力のせいで、あるいはおかげで、他人を信用したことがなかった。だから恋人というものは一生作れない、作らないと思っているのだが、肉体関係を結んだことがないわけじゃなかった。
 女は基本的に弱い生き物だ。力だけでなく、社会的な立場という意味でも。だがその弱さを武器に、何人もの権力者と寝ては財を吸い尽くしてきたのだ。今更、一夜の相手を無理強いされることくらい何とも思わないはずなのに。
「震えているぞ」
 この男を相手にすることが、たまらなく怖い。
「血を抜き取って殺すつもり?」
「殺さないと言っているだろう」
 それが嘘じゃないことは自分が一番よく分かっているはずなのに、やはり震えが止まらない。
「凌辱して捨てる?それともこうすることで女を言いなりに出来ると思ってる?」
「質問が多いな。少し口を閉じていろ」
 DIOの長い爪が首に当たり、顎を掴んで上向きにさせて口づけで黙らせる。そのままキスは長らく続く。喋ろうとしても舌を絡めとられてうまく言葉が紡げず、甘い声が口の端からぼろぼろと零れるばかりだ。
(本当に、質問をさせたくない……?つまりこの男、私に何か隠したいことがあるんだ)
 ようやく解放された口から思い切り酸素を吸い込むも、やはり言葉が出てこない。下半身に埋まるDIOの質量に、今度は悲鳴に似た甲高い声が上がるばかりだ。
「ふ……絶え間なく喘がせていればお前のおしゃべりを止められそうだな」
「あぐっ…………ん…………どし、て……私を、抱く、の。誰でも、いいはずでしょう……?」
「……黙れ」
「答え……られないのね」
 公子を抱く理由を、公子に知られたくない。それは何故なのか。
(それが分かれば、状況を一転させられる?)
 だが公子のスタンドの非力さはその微妙なアビリティにも言えることだ。嘘をついていることが分かっても、真意を知ることが出来ない。そしてそれを読み取る力は、公子自身にはほとんどない。なぜならスタンドに今まで頼り過ぎていたから。その人の本位を探ろうとしたことは今までなかったから。
「なん、で……」
「……」
「答えてよ」
「もっと喘がせてほしいのか」
 DIOは一瞬顔を逸らせた。やはり何か隠し事があるような気がする。だがそこを深く考える余裕を与えてはくれない。公子の体が軽々と持ち上げられ、手はハーミットパープルで掴まれてDIOの首筋に絡ませられる。
 いわゆる対面立位の格好でつながると、重力のせいでより深いところにまで到達してしまう。加えて規格外ともいえるようなDIOのそのサイズが、公子が今まで受けたことのない刺激を与え、質問を嬌声へと変える。
 尻を支えている手が上下に激しく動かされる。体ごと揺さぶられて最奥を激しく突かれ、感覚がマヒしていくのがわかる。摩擦を感じなくなる分、脈動がより伝わってくる。DIOのそれが、今にも絶頂を迎えようとしているのだ。
「あっ、な……か……」
「ああ。もちろん中で」
「やめ……」
 拒否の言葉と、腹内にじわりと液体が広がる感覚は同時だった。公子を支える大きな体が身震いしている。
「んっ……」
 引き抜くときに短く声を漏らすと、ようやく公子の体はベッドの上で自由になった。縛るものは何もないが逃げ出す体力もない。
「し……質問に……うぐっ」
 それでもなお攻めようとする公子の口を、今まで自分の体内にあったそれがふさぐ。
「歯を立てるなよ。綺麗に始末しろ。それで今日は許してやる」
 今日は、ということは明日もあるのだろうか。最悪の考えが脳内をぐるぐると回る一方で、早く休みたい一心で公子は自分と相手の体液で汚れたものを舐めあげる。
 恨めしそうにする視線に、DIOは嬉しそうに笑った。
「何度質問しても答えんぞ。質問するたびにこういう目にあうと覚えておけ」

 公子のスタンドが嘘でないと判断する回答は、公子を好いているから以外にないことをDIOは知っているから、その質問に答える日はまだ来ない。


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