小説 | ナノ

「ひっ!」
 女が恐怖でひきつるような声を出すのは、経験上知っていた。今まで戦ってきてこういう声を出して来た女を数人知っている。だからこそ確信する。公子は今、極限に近い恐怖状態の中にいると。
「怖がらなくていい」
 そのセリフが文面とは真逆に受け取られることを承知で耳元で囁くように言う。公子の固く閉じられた目の端から涙が零れ落ちた。
「たまには立場を逆にするというのもいいんじゃあないか?」
 とはいっても公子に手錠などの拘束具をつけることはない。恐怖で縛り付けるだけで、彼女は一歩も動けなくなっているのだ。
「なるほど。確かにこれは、ハマるかもしれないな。相手が意中の女だと、尚更」
「なに……言って……」
「最初から言っていたと思うが。公子を抱きたいと」
 確かに思い返してみればSMプレイには割と興味を示していなかったが、性行為にはかなり乗り気というか、まあそれを目的として金を出していたと本人も言っていた。
 女王様が欲しかったわけではない。
「公子が欲しかった」
「そ、そういうのは範囲外よ!私、本番行為は……」
「しないんだよな。知ってる。だがこれは商売じゃない。個人的に誘っているだけだ」
 脅しているの間違いではないかと言いたかったが声がなかなか出てこない。ひきつけを起こす喉を抑えながら体を後ろに引きずると、ゆっくりとした足取りで距離を詰めてくる。わざと、追い詰めて遊んでいるのだ。
「貞操帯を外したから今日の分は終わりでいい。ここから先はビジネス外の話だ。なぁ、たまにはやられる側の気持ちも勉強した方がいいんじゃないか?女王様」
 プレイ中決して口にしなかった女王様という単語を、皮肉たっぷりに口にする。恐怖で半泣きの、威厳もクソもない女王様に向かって。
「私が教えてあげよう。君が望むなら、優しく教授してあげるが」
 それはつまり、ここで首を横に振るならば乱暴に事を致すということである。だがだからといって素直に受け入れることも出来ない。
「乱暴な方が好みか?」
 承太郎が上着を脱ぐ。先ほど貞操帯を外すために下半身だけ脱いでいる状態だったので、これで全裸になった。鍛え上げられた肉体を晒しながら乱暴という単語を言うことで、更に公子を追い詰める。
「や、だ」
「怖いか?」
 その問いには素直に頷く。
「だったら、優しくして下さいと言えばいい」
「な……何よ、それ。そんなこと言うの、奴隷の方じゃない」
 精一杯の強がりは鼻で笑われた。だが笑ったのは震えている公子を滑稽に思ったからじゃない。
「普通は恋人同士で言うもんなんだよ」
「えっ」
「そういう可能性を全く考慮しなかったのか?やれやれだな」
 下着しか身に着けていない公子を、それ以上脱がせるようなことはせずに少しだけずらして直に触る。
「今日は俺が公子の全身を開発したいんだ。ダメか?」
「生意気っ……」
 だが、拒否することはとうとうしなかった。

 今夜は、手錠が公子の手首につけられている。いつも承太郎の腕を拘束していたものが自分に取り付けられていくことに、公子は身震いした。
「足開いて」
 ランジェリーを下ろされ言われるままに足を開く。不格好なことに右足首に脱がし切れていない下着を引っ掛けたままそこに承太郎の舌を迎え入れる。
「っ!」
 そこを舐められるのは初めてではないのに、こちらが頭を押さえつけて無理にさせていた時とは全く違う感覚だ。小さな溝をなぞる様に時間をかけて舐る様に羞恥を覚える。
 クリトリスを歯で刺激されると体がはねる。同時に股を汚す体液が涎ではなく自分から分泌されていることに気が付いた。
 まるで処女のような反応を晒していることに、敗北感を覚え屈服してしまいそうになる。このままこの男に身を委ねれば、どれだけの快楽が待っているのだろうか。
「入れるぞ」
「……アンタのは舐めなくていいの?」
「今されるとすぐに出してしまいそうになる。二発目が用意できるかどうか微妙なところだからな、年齢が年齢だから」
 いたずらっぽく笑う表情に、皺が刻まれている。公子とて若いと言われるような年齢は少し過ぎているのだが、二人の大人は十代のようにただひたすら貪るだけの行為に没頭していった。
 しばらく使っていなかった公子の穴が承太郎によって拡張されていく。少し痛みも伴うが、この男の巨大なそれを体内に受け入れていると触覚で理解すると背筋がぞくりと震えた。
 一番奥が、圧迫される。ここまで届くものを受け入れたのは初めてだ。少し体制を変えるだけで中のものが壁を擦り、公子に声を上げさせた。
「苦しくないか?」
「んっ……」
「気持ちよさそうな声だ」
 その反応を確かめてから腰を前後に振る。その度にじわじわと体液が漏れ出してシーツを汚していった。
 今まで足蹴にしていた男に、押さえつけられ、縛られ、犯されている。だがそれが逆に興奮材料になっていることに公子は気づいてしまった。逆に、夜の生活で女王となっていた自分と奴隷の男が、単なるアルバイトと先生と呼ばれるような職業の人物に戻ることに、公子もまた快感を覚えていたのかもしれない。
「中で出してもいいか?」
「そ、それはマズい……」
「どうしようか、止まらない」
「止めてよ!」
「先ほど恋人同士などと口にしたが……夫婦に変更しても構わないだろうか」
「そんなの……!」
 反論をキスでふさぐ。口を離すと息継ぎするように酸素を求めた。
「子供が出来たら、こんなおもちゃよりもいい手錠になるか?」
 手錠を外すと、指を絡めあうようにして手をふさぐ。
「縛られるのも悪くなかったろ?君の一生を俺に縛らせてほしい」
「アンタね。中出ししたいからってそんなこと普通言う!?」
「逆だ。公子が欲しいから、するんだよ」
 腰を動かす速度を上げる。この男は公子が何を言ってもこの手を離すつもりはないのだろう。お預け状態でこれだ。もしも出してもいいと許可すると、一体どういう顔でどういうことをするのだろうか。
「……いいわよ。出して」
 それが急に見たくなって、そっぽを向きながら小声でそういった。
「……」
「何」
 一瞬動きを止めて目を丸くしたかと思うと、手を離して公子に抱き着いた。先ほどまでの緩やかな動きではなく、貫こうとするかのように腰を振る。
「あっ、急に……」
「聞いたぞ。今」
「ん……いい、から……ちょっと、ゆっくり……」
「すまない、本当に、止められない」
 最奥を突いたときに上下に動くことで奥の壁に引っ掻くような刺激を与える。それを繰り返されると思考がマヒして口元が緩くなっていくのが分かる。
 更に奥を求める承太郎が公子の腰を持ち上げてピストンを行う。その度に陰嚢が揺れて公子の尻を叩いた。
「俺だけのものになってくれれば、女王様でも構わない。だが今だけは、君を奴隷にして、支配する。受け止めてくれ」
 体内でゴプっという音の振動を感じた。いつも承太郎がイッた瞬間の顔を見てきたのだが、今日ほど理性を捨てた動物のような顔は見たことがなかった。
 容姿端麗な男のこの表情は、自分にしか引き出せないのかと思うと、やはり支配しているのは自分なのだと女王は思い、ほくそ笑んだ。

*END*


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