小説 | ナノ

「スタンドに理解がない人間を伴侶にするのはお勧めしないな」
「経験者が言うと説得力ありますね」
 なんてことを言っていたはずなのに、公子はスタンドを持たない男性と交際を始めた。承太郎も分かっていたのだ。自分が離婚に至ったのは相手にスタンドがないせいでも、自分にスタープラチナがいるせいでもない。
 例えDIOのことが一切なく、自分にスタンドが発現しなかったとしても、きっと結局仕事ばかりで家庭を顧みないダメな父親になっていただろう。自分の父と同じように。
(俺は妻が高熱で意識を失っても海外で仕事をし続ける親父を責める気は全く起きなかった。だが、じじぃは……飛行機の中で随分文句垂れてたな。そりゃそうだ。今の俺なら分かる。徐倫が熱で苦しんでいるときにそれをほっぽって海外で仕事してるようなヤツの元に嫁がせたくねぇ)
 せめてこの思いが、杜王町に行く前に芽生えていたのなら、何か変わっていたのかもしれない。

 公子に恋人が出来たとうわさに聞いてから半年後。久々に会った彼女は随分とやせ細っていた。
「飯食ってるのか?」
「大丈夫ですよ。少々外回り≠フ仕事が多かったのでダイエットになっただけです」
 公子の言う外回りとはすなわち、スタンド絡みの厄介ごとだった。数少ないスタンド使いはトラブルシューターとして日夜危険な現場に派遣される。
「仕事が順調ならプライベートで何かあったのか」
「珍しいですね、先輩がそこまで突っ込んで聞いてくるの」
「答えな」
「……そうですね。プライベートはあまり充実していません」
「前言っていた男か」
「ええ。自宅にいるときでも容赦なく呼び出されますからね。そのうえ仕事の内容について詳しく教えることも出来ない。だから拗ねちゃったみたで」
「だから言っただろう。スタンドを持たないヤツとはうまくいかないと」
 公子は困ったように笑うと首を横に振った。
「いえ。あらゆる職種で起こりうる問題ですよ、こんなの。私が警察や軍属だったとして、スクランブルがかかって呼び出されたとしてもやっぱり不満を言うと思いますよ」
「だったらスタンド使いじゃなくても、せめて……仕事に理解のある男にしておけよ。そうでないなら一人の方が気楽なんじゃねぇのか」
「私、一人だとダメなんです。こういうとちょっと引くかもしれませんけど、依存体質というか。寂しくて死ねちゃうタイプで」
「……利害の一致する相手ならいるだろうが」
「利害?」
「次の相手はスタンド使いの女がいいと思っている俺と、仕事を理解してくれる男がいいと思ってるお前」
「……そういうこと今いいます?ずるくないですか」
「ずるくもなるだろ。俺たち知り合ってから何年経ったと思ってんだ。このくらいの駆け引きするくらいには、歳を食ったぜ、俺ら」

 エジプトを目指すあの旅で、何もかも理解しあえたと思っていた。魂の根底からつながっている関係になったと思っていた。そう思っていたのは、当時高校二年生の承太郎だけだった。
 二つ年下の、まだ中学生だった公子は、あの旅で承太郎のことだけを仲間として見ていなかった。一人の男性として想いを寄せていた。
 だが承太郎は、皆等しく仲間だった。命を賭しているという吊り橋効果がもたらす幻想なのだとハッキリ言われた。

「先輩のことは、十五歳のときにちゃんと諦めてますよ」
「……何故いつも、気が付くのが遅ぇんだろうな、俺は」

 徐倫が熱を出したということがどういうことか、あのとき気づいていれば。
 主人公子という少女に抱く想いが、まだ芽生えてない恋心だと、あのとき気づいていれば。

(気づいていれば、何が変わったんだ……?)


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