小説 | ナノ

「あけまして」
「おめでとう」
「いやー、去年の今頃はエジプトでDIOの野郎を探してあっちゃ行きこっちゃ行きでとんでもなかったなー」
「まあまた生きて皆と再会できたことに感謝だな」
「がう」
「さて、今日は後処理もなんやかんや終わったからのんびり正月を満喫しようじゃないか。ということで……第一回、チキチキかるた取り大っ会ーっ」
「KARUTA?」

 ルールは以下の通りである。
 言語のハンデを作らないようにするため絵札にはただの写真を使用する。読み手が言っているシチュエーションの写真を一番早く取った人物がその写真を入手することができる。一番写真が少なかった人は罰ゲームを受ける。
「というわけで、読み手は主人公子が努めます」
「どんとこい」
「なおスタンドの使用が発覚した場合即座に罰ゲームとなります」
「なぁに、バレなきゃいいんだろ」
「承太郎本当にやめてね……?それじゃあいきます……」
 そう言って並べられた写真とは。
「なんじゃこりゃ!俺たちの隠し撮り!?」
「ちがーう。わしが過去を念写しただけじゃ」
「え、つまりそれって僕たちのプライベートな写真も撮ろうと思えば……」
「思えば撮れる。が、わしがそんなこと思うように見えるか?」
「思うので花京院が心配してるんですよ、ジョースターさん」
「ひどい!割と冷静頭脳派の花京院とアヴドゥルに言われるとつらい!」
「いいから読みますよ。えー……極彩の、タイガーバーム、ガーデンで、不義の剣が、焼け落ち沈む」
「はいっ!」
 花京院がとった写真はカラフルな色彩が目に眩しい。タイガーバームガーデンといえばこのとんでもないセンスの建造物の数々である。
「あー……私とポルナレフが戦った」
「あ、俺のオデコにまだついてるじゃんこれ」
「次……太平洋、迫る刺客と、密航者、見つかるマヌケが、鼻先に触れ」
「オラ!」
「お、さすが承太郎。ここは承太郎が活躍したとこだったね」
「フン、あの小娘には二度と関わりたくねぇな」
(と言いながら一番世話焼いてたの承太郎なんだよなぁ)
「レロレロの……」
「オラ!」
「承太郎早い!」
「いや、この写真明らかにこの中で目立つだろ……」
「食事風景ならいいですけど食べてる真っ最中を撮るのやめてくださいよ、恥ずかしい」
「た、食べてる最中なんだこれ……」

「凶弾に、消える命の、灯が、託す絆に、涙で応え」
「アヴドゥルが死んだとこだー!」
「死んでない」
「瓜二つ、亡き友の父、面影に、贖えぬ罪、償う為に」
「アヴドゥルが生き返ったとこだー!」
「死んでない」
「水神が、熱砂のしじまに、身を潜め、狩るため投げる、虚偽の足音」
「アヴドゥルがやられたとこだー!」
「や、やられはしたが死んではないぞ」
「悪戯に、引きあう二人、縺れ合い、重なる視線、滾る欲望……なにこれ」
「アヴドゥルが勘違いされてるとこだー!」
「ジョースターさんもされてますからね!?これ!?ちがっ、この写真は、スタンド攻撃を受けてだな……というか公子に何を読ませてるんです!」

「さて……結っ果発表ぉぉぉぉ!」
(ジョースターさんが何かさっきからあの司会者っぽい声だすな……)
「というわけで枚数最下位はポルナレフ!道中加入してから一度も離脱していないのにこの体たらく!」
「う、うるせぇ!」
「罰ゲームはこれじゃ!ヤマトナデシコ体験!この着物を着て初詣!」
「ええええええ!あ、すげぇ綺麗な服」
「なんじゃ、案外興味津々じゃないか」

 というわけで一行が訪れたのは都内最古の寺である浅草寺。全員宗教的に大丈夫ということで揃ってお参りすることになった。
「俺はここに来たら必ず揚げ饅頭を食うと決めているんだ。何か所か出してる店があるがな、あっちの店以外で食うなよ。揚げ饅頭はあの店が一番……」
 背の高い承太郎ならばすぐに周囲を見渡して追いつけるだろうと、早速買い食いに走る彼を置いて先に行くことにした。こちらにはポルナレフという相当に目立つ歩くランドマークがいるのではぐれることはないはずだ。
「おい花京院、アレはなんだ?矢か?」
「ああ、破魔矢ですね。武器というよりはお守りのようなものです」
「うむ……あのスタンドを生み出す原因となったのも矢の形をしていた。何かしら意味があるのだろうか」
「そもそも破魔矢というのは……」
 それから日本の珍しいものに、外国人組が各々飛びつくようにして隊列を乱していく。一方それに気づかぬ公子は地元民だからと張り切って先頭を歩いていたのだった。
「あ、これは常香炉と言いまして浅草寺で有名なパワースポットなんです!悪いところにこのお線香の煙を当てるとよくなっていくと……あれ?」
 鼻息荒く説明しだしたのだが、肝心の観光組が誰一人いない。一人ぽつんと取り残された公子の周囲には、腰や肩に煙を浴びるおじいちゃんおばあちゃんしかいなかった。
「あ……あるぇ〜?」
「お姉ちゃん、一人ぃ?」
 そこに新年早々酒臭い息をまき散らす酔客が公子の肩に手を回す。派手な色の頭とじゃらじゃらとつけた悪趣味なチャームの大きいアクセサリー。明らかにかかわるとめんどくさいオーラを放つ男から公子を救い出そうというのは、周囲のおじいちゃんおばあちゃんには酷な話である。
「俺と一緒にスカイツリー行こうぜえ?あそこさあ、カップルばっかでやんなっちゃって引き返してきたんだけどよぉ……お姉ちゃんみたいなかーいい女の子だったら周りにも自慢できる、みたいな?」
「ひっ……くさっ……やめ……」
「ちょっと、くさってひどくない?そういう悪い口にはこの煙をいっぱいかけないとねぇ……」
「ごほっ、ちょ……」
「あーでもダメだわ。俺の手癖の悪いこの掌にいっぱいかけてんのに一向に治んねぇからさ、これ意味ないわ」
 そう言いながら公子の体に触れようと伸びる手を、それより一回り以上太い逞しい腕が止める。
「そうだなぁ、代わりに俺が直してやるよ……テメェの性根ごとなぁ!」
「ポルナレフ!」
「いってててて!ちょ、やめてくれ!いてっ!うわすごいごついオカマ!」
「神前だ!控えろ下郎!」
「ひいいいい!」
「あ、あの……ポルナレフ。ありがとう。それと……」
「それと?」
「ここはお寺だから神前じゃないの。ここで祀られている観音菩薩は厳密に言うと……」

 この人ごみの中、いかに目立つといえど承太郎たちと合流することはかなわなかった。仕方なしに二人でお参りを済ませる。
「……」
「……」
「こ、これでいいのか?」
「うん。まあ日本はあまり形式にはこだわらないからね」
「だってお前細けぇんだもん。神と仏の違いとかよー……」
(菩薩は仏ではないのだけど……まあいいか)
「そういや気になってたんだけどよ、あの紙がいっぱいくっついた木はなんなんだ?」
「ああ、おみくじ。あれは占いの結果が悪かったものを結んで帰ると悪い運気を祓ってくれる、みたいな迷信があるの」
「占いかー。よし、いっちょ引いてみようぜ。そんで、アヴドゥルに答え合わせしてもらおう!」
「お。占い対決面白そう!じゃあ早速行こうか」
「その前に俺あの赤いでっかいキャンディ食いてぇなぁ。あとまあ、何はなくとも酒だな。ワインがねぇならまぁビールでもいいかな」
(……さっきお参りでお願いした、好きな人と一緒に居られますようにってのが、さっそく叶ったみたい)


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