小説 | ナノ

 それは短い手紙だった。封筒にも入っていない、ノートを破った些末な紙切れ。
「……意外だな」
 短い手紙を読み終えた承太郎の感想は、その一言だった。
「え、何がなんです」
「もういい。じゃあな」
「えっ、えっ……あぁ、行っちゃった……今度花京院さんにチクって盗み見してもらお」



 その短い文章の中に、公子にあてられたメッセージはなかった。けれども内容は、公子のこと、ただ一つだけだった。





 公子がM県に行くと言い出したら注意しろ。そこにはスタンド能力をもった殺人鬼がいる。そいつを倒しに行くんだろう。だが状況が違えば公子の予言の知識は役に立たない。本来お前が十年後に戦う相手だ。取り返しのつかないことになるかもしれない、必ず守ってくれ。
 ほかにもきっと、未来を知っているがために様々な場所に行って何かしようとするはずだ。どれもこれも危険なことに違いないだろうから、目を離さないようにしてほしい。

「……言われるまでもねぇよ」














「え、M県についてくるの?まだ学校あるでしょ」
「自由登校みてぇなもんだ」
「んなわけないし、だったらなおさら受験勉強しなよ」
「俺が多少勉強しないくらいで落とすと思ってんのか?」
「うわぁ、すっごい余裕」
「とにかく、俺も行くからな」
(うーん、自分のお爺ちゃんが浮気したうえ隠し子がいるってことをどう説明したもんだか)
「もう、離れ離れになりたくねぇ」
「……分かったよ。一緒に、行こう」









 公子。突然目の前で消えてしまった君を見て、私は原因を探して世界中を回った。君がああやって消えるのは世界を移動する時だという話だけを手掛かりに、財団のネットワークやパッショーネの持つ裏の情報網を全て利用し、ある一つの答えにたどり着いた。
 君がどこで産まれ、どこからやってきたのか、それはやはり分からない。けれども君がどこへ行き、どこで骨を埋めるつもりかは予想がついた。世界の間に隙間を作るというスタンド能力を持った男を探し当て、違う世界の存在の説明を聞いた。(この男はスタンドで悪さをしていたようなので少し叱ってやると快く#\力の説明をしてくれるようになった)
 私の予想が合っているかどうか、祖父に弱った体で君の世界を念写してもらった。考えていた通りの結末に、正直半分はほっとしている心境だ。
 念写で得た君のいる世界に向かって、この手紙を出す。正直君の世界の隙間を作るスタンド使いがそれを拾うかどうか、そもそも届くかどうか、それはやはり途方もなく低い確率だということは承知している。
 けれども私や、君の隣にいる男は無理だとか無駄だとかいった言葉は聞き飽きているはずだし、関係のないことだと思う。
(……いや)
 ペンが紙の上を走る音が止まった。今書いた文字を見て、何かこらえる様な表情になったかと思うと承太郎はペンを置き、この紙を破ってゴミ箱へ捨てた。
(これは、女々しいな。彼女の心残りになるようなことは、したくはない)
 結局、懸念している『一人で吉良討伐』を阻止する提言だけを、隙間へと投げ込むことにした。公子の性格上、きっとそこへ向かうことは簡単に予想がついたから。
 おそらく、エルメェスの姉が殺害される事件や、ウェザーのこともなんとかしようと思うのだろう。では、そうなった世界にフー・ファイターズは存在しない。アナスイと徐倫が巡り合うこともないかもしれない。いや、徐倫が産まれない可能性のほうが高い。
(それが正しいかどうかは分からない。だが君は、そうするべきだと思ってそうするんだろう。君の進む世界に、私の痕跡をこれ以上残したくない)
 破れた紙は、最後に書かれた文字を引き裂いていた。



























 愛して   いる



*END*


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