小説 | ナノ

 この生活はうまくいくだろう、なんて。何の根拠もなく呑気に考えていたのも、承太郎の理性的な性格と自分の中にある恋愛に発展させられない後ろめたさのせいだ。
 が、これらは根拠ではない。人間の心などうつろうものだし、何より承太郎に対して後ろめたさがあるということは恋愛感情もそれなりに持っているということではなかろうか。
 そしてそれは承太郎にも言える。理性的だというのならば、その理性で押しとどめている彼の本能があるのでは。

「承太郎さん。以前私が休みが欲しい場合の食事について話したと思うんですけど」
「ああ。どこか出かけるのか」
「はい。外へ食事に行くだけなので作り置きしておきます。レンジ、使えますか?」
「さすがにその程度のことは出来る……ところで、誰かと行くということか」
「はい。ジョルノさんと一緒に」
「……いつの間にそんな話になっていたんだ」
 普段何があっても動じない承太郎が明らかに動揺している。ハッキリと表情に出たそれは多少公子への非難の気持ちもまざっていた。
 確かにある意味身内ともいえる関係ではあるが、かつて敵対し殺しあった男の息子と、しかも現在マフィアのドンとして君臨する男と二人で食事に行くなど、はいそうですかと見送れるものではない。
「あ、だ、大丈夫です。彼は確かにDIOの息子ですけど、あの、彼にはそういった悪意は……」
「君はなんの話をしている」
「え」
「彼が誠実な青年ということは会って話した私もよく理解している。だが、それは仕事やスタンド能力についてだ。確かに彼はあの強力なスタンドを利己的な目的に用いることはない。しかし初対面の女性をいきなり食事に誘うような男に気を許すなと言いたいんだ」
(お父さんかよ……)
「……すまない、忘れてくれ。君のプライベートに干渉したのはその、しばらく同居するうえでも最低の行為だと分かっている」
「いえ、そこまで言わなくても……私のほうにこそ何か生活するうえで改善してほしい点があるんじゃないですか?この間も随分お酒を飲まれてたし、何か不快にさせたことでもあったかと」
「いや、あれは断じて違う。その……単純に料理が、美味かった……から」
 何か言いつくろおうとしたが結局正直に答えた、といった顔だ。改めて相手を褒めるというのも褒められるというのもなんだか気恥ずかしさがあるもので、二人は顔を赤くした。
「あの。承太郎さんが不快に思うならお断りします。お二人は親族間という以上の間柄ですし」
「いや、気にしないでくれ。同居人に気を遣わせるようなことはしたくない」
「いえ。私がそうしたいからそうします。軽率な行動なことは確かですし、何より私も同居人に……いえ、承太郎さんにあきれられるような行動は慎みたいんです」
「何故私の名前に言い直した。自惚れてしまうぞ」
 濡れた緑色の目が、公子を見つめている。だが眼差しは熱っぽく、じっとりとした重さが公子をとらえる。薄く開いた唇から吐息まで聞こえてきそうに辺りは静寂が支配していた。
「……」
 どちらとも何も言わない。相手の決定的な一言を待っているのだ。いや、承太郎はその一言を声にしたつもりだ。返事を、待っているのだ。
(だ、だめだ。流されちゃ。だって、私が本当に好きなのは……)




 砂塵を舞わせる熱波が容赦なく体力を奪う、灼熱のサハラ。だがそれは昼の顔で、月が昇る頃になると氷点下にまで気温が落ち込むこともある。
 冷たい夜風で消耗してしまわないよう、焚火の周りでシェラフを使う一行から抜け出し、承太郎と公子は小高く積もった砂の上で天上に瞬く星を見ていた。
 双方が双方の気持ちを理解しながら、迫りくるたくさんの死を目前になかなか言い出すことが出来ない愛してるの一言を包み隠すように、二人は固く手を握った。
「行く当ても身寄りもねぇっつんなら……この旅が終わったら、俺と暮らさねぇか」
 その返事は、空港で問われるまで返すことはない。




「すみません、ジョルノさんに、お断りの連絡を入れてきます」
「……ああ」


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