小説 | ナノ

 その日は午後からようやく遺跡調査に同行することになった。訪れたそこは公子が漫画で読んだ光景と、そして二部の世界を戦った時と同じものである。
 ただ違うのは、周囲にいるのがSPW財団と書かれたジャケットを羽織る人物の中に数人、明らかに目つきの違うスーツの男がいるということだ。
「空条さん、例の……お会いしたいと……」
 財団職員が承太郎に気づいて駆け寄りながら話していた内容を、公子の姿を確認すると少し濁した。
「いや、大丈夫だ。それに、公子も知っている人物になる」
「……あ」
 それでようやく合点がいった。ここはイタリア。そして吸血鬼と関係のある遺跡であれば彼らが調査をしないはずがない。
「お待たせしました。スィニョール・クウジョウ。ここ一帯を取り仕切るマフィア、パッショーネのボスをしています。ジョルノ・ジョバァーナです」
 金の頭髪は前の部分は輪を作るようにまとめられていたが、後ろに垂れていた三つ編みはなく短髪になっていた。が、DIOの面影を残す妖艶なこの顔、見間違うはずがない。
「空条承太郎だ」
 握手を交わす二人。ジョルノの首筋にもジョースター家の証である星形のアザがあったが、並んでみると体格が全く違う。ジョルノはまあ、まだ常識的なサイズの骨格だ。
「そちらの……スィニョリーナは」
 いつまでも公子のことを紹介しない承太郎にしびれを切らし、ジョルノのほうから話題を振った。承太郎的には後回しでいいだろうと思っていたのだが、イタリア育ちの男にはそれは許せないことなのだろう。
 きちんと公子の左薬指を確認して「スィニョリーナ」と言うあたりからも、イタリアの伊達男の気風を感じる。
「彼女は我々ジョースター家と奇妙な縁のあるスタンド使いだ。名は、主人公子」
「初めまして、ジョルノさん」
「初めまして。ジョースター家と奇妙な関係にあるというのは……道中お伺いしてもいいですか?」
「はい」

 パッショーネの面々が周囲を警戒しながら三人を遺跡の更に奥へと案内してくれる。その先頭を歩くのはミスタだ。服装が違って最初わからなかったが周囲をピョンピョンと飛び跳ねるピストルズを見て、というよりやかましい話声を聞いて気が付いた。
「ミスタ、少し静かにさせてもらえませんか?」
「悪ぃ悪ぃ」
「それで公子。あなたは僕の父達が出会ってからその因縁が解かれるまでの全てを記した書物を読み、そのうえでそれらを経験してきた、と」
「そうなります」
「ではこの遺跡についても、その予言書の知識で何かわかるかもしれませんね」
(ジョジョの単行本が予言書……)
 出土した石器や化石を慎重に保管する職員たちを通り抜け、ずいぶんと奥まった場所までたどり着く。そこはぽっかりと開いた空間で、壁一面に細工を施した、何か特別な場所であることが素人目にも分かった。
「そういえばこの調査って具体的に何を調べるって目的があるんですか?」
「人類以外の知的生命体の存在の有無を検証することが主な目的です。吸血鬼も柱の男たちも我々人間に何かしら害意がありましたからね。これからの脅威を未然に防ぐ必要があるかと思って」
 ここがマンガの世界だと思っている公子からすればもう何も恐れることはないという確信があるが、この世界に産まれた彼らにとってはそうでないだろう。それに世界を一巡させることを完全に阻止した世界線であれば、未来がどう変わるかなんてわからないものだ。
 これから先自分たちが生きる道を記した予言書はもう、ない。

 結局のところ学術的な意味での知識がない公子はあまりこの調査に同行する意味がなかったかのように感じた。どちらかというと財団とパッショーネの共同調査になるから、財団側からもスタンド使いを同行させたいという双方の組織バランスのための飾りとして連れてこられたのだろう。
 それで皆の仕事が円滑に進むならば喜んでついていくが、承太郎ほど多忙な人間まで連れてくる必要性はあったのだろうか。もしかするとジョルノとの顔合わせが本当の目的だったのかもしれない。
「今日はお疲れさまでした。公子、あなたをローマで一番美味しい店に招待したいのですが、お時間ありますか?」
「ちょっと承太郎さんに聞いてみますね」
「あ、待って。これは、あなた個人に聞いているんです。もし彼と先約があるのなら、後日改めてお迎えに上がりますので連絡先を聞いてもいいですか?もちろん、プライベートの」
 さらっと言われた割にはとんでもない内容である。目を丸くしたまま黙りこくってしまった公子の手を優しく取ると、そこにキスをして自分の金の髪を一輪の花に変えて握らせた。黄色いゼラニウムは、予期せぬ出会いという花言葉がある。
「これ、僕の名刺です。一週間後の夜は空いていますか?」
「あ、えっと……」
「店を予約しておきます。あなたが住居を教えるのが不安ということでしたらこの住所に十八時、ドレスを着て来てください。待っています」
 結局返事をする暇を与えずにジョルノは高級車の中へと去っていった。その扉を閉めたミスタがちらりとこっちを振り返り、手を軽くあげて何か言った。口の形からしておそらく「チャオ」だろう。

「彼女の予約は取れたんですか?ボス」
「その口調やめてくれませんか、ミスタ。とりあえず予約はまだ取れてません、が。あのまま押せば確実に断られてた。彼女、待ってると言えば来てくれるタイプの女性ですよ」
「自信満々じゃねぇか」
「それがそうでもない……きっと、そうあるのは僕だけに対してじゃない。彼女は誰かが自分を必要として待っていれば必ず駆けつけてくれる。優しさであって愛情じゃない。僕だけじゃなくて誰にでもだ」
 その言葉を公子が聞いたならどう思うだろう。自分は助けを必要としたジョジョたちのもとへ駆けつけた優しい女というわけではない。きっと、思うままの結末を望んだ、あくまでも自己中心的な理由で助けに来ただけの、エゴイスト。


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