小説 | ナノ

 奇妙な共同生活をすることになった。年齢的に微妙に対象外のようでそうでないような男女二人が、仕事のため同じ家に帰ってくる。
 しかも、だ。
「部屋の手配なんだが時間を割くことが出来なくて、もし君さえよければこのままでも構わないだろうかという提案があった」
「……はあ」
 正直、身寄りのない自分を引き取ってもらっているというような恩義を財団に感じている公子はあまり無理を言って困らせたくなかった。相手が承太郎なら悪い気はしないし、なにせ離婚しているとはいえ年頃の娘もいるような人物だし、やましいことを考えるような性格ではないことも知っている。
「私は構いません」
「そうか。ではそう伝えておく」
 最低でも三か月。いい年の大人のルームシェアがスタートした。

(ワイン安っ)
 地元のスーパーで適当に買い物をする。家事の分担についてなのだが衣食住の内、衣と食は公子がするということになった。金については全て承太郎が管理すると聞いたのだが、二人分の食費にしてはかなり多い額を提示されている。しかも現金ではなくカードなものだから使いすぎには注意せねばならない。
(だからといって安物を食べさせるわけにもいかないし)
 食の好き嫌いについては事前にヒアリングをしている。基本的になんでも食べるがたまに和食が欲しいというリクエストを受けた。
(でもまだこっちに来たばかりだから白米が恋しいってほどでもないよね。でもスパゲッティが続いているから……パン?でもパンに合うおかずって何?)
 今日のメニューはアクアパッツァをメインに白ワインに合うような献立にすることにした。
(しかし……私の仕事って主婦やることなのかこれ!?)
 こちらに来てから肝心の遺跡調査にまだ携わっていない。というよりコロッセオにすら行ってない。長旅でお疲れでしょうから、着いたばかりでバタバタしてるでしょうから、と言われ続けてもう一週間は経った。
(最近戦ってないから体がなまりそう。そういえばリサリサ先生ってまだ現役なのかな)
 カーズ達柱の男をすべて倒した今、波紋戦士の修行の場であるエア・サプレーナ島は一体どうなっているのだろうか。
(夕食のときに承太郎さんに聞いてみよう)

 アクアパッツァは初めて作ったが上手に仕上がった。前々から仕込んでおいたピクルスも酸味が強すぎず口当たりがいい。
(今日はごちそうができた!)
 トマトの角切りをオリーブオイルで和えたものをブルスケッタに乗せて食べる。次々出てくる食事はどれもこれもワインが進む。
「美味い」
「ありがとうございます」
 相変わらずの無表情であったが、本当に美味いと思ったときしか言葉にしない性格なので世辞ではないだろう。少なくとも高校生の時はそうだった。
「あの、承太郎さん。私いつから調査に同行すればいいんでしょうか」
「少し現場でトラブルがあって私も財団からの連絡待ちといったところだ。休みがほしいなら数日なら自分の食事くらい自分で用意するが」
「あ、ちょっと修行と言いますか。戦闘があるかもしれないということなので波紋の修行を行いたいなと。それで、曽祖母のエリザベスさんが現役ということでしたらご指導いただきたいなと」
「ああ……連絡してみる」
 それから空き瓶が増えるペースはすさまじかった。承太郎の好みがよくわからないので赤白様々なものを購入したのだが、それらが一日で飲みつくされる勢いだ。
 未成年の頃からビールを飲んでるような男なので酒も強いのだろうと言われるがままにグラスに注ぎ、つまみとしてチーズをカットして出していたのだが。
「あの……承太郎さん?」
「んー……」
 完全にペースが乱れ酔いつぶれていた。公子も少々飲んだとはいえボトル四本はさすがに無理だろう。
「気持ち悪くないですか?」
「あー、俺は酔っても吐かないタイプだから……へーき」
(へーきじゃないヤツだな)
 食卓に突っ伏す承太郎の上着を脱がせてやり、ハンガーにかける。せめてベッドまで運んでやりたいがスタンドを使っても無理かもしれない。
「あ、スタプラ」
 スタープラチナが顕現して承太郎を米俵のように抱えて寝室に移動する。心配になり一応ついていくと、ベッドの上に本体をそっと降ろしていたところだった。
(よかった。大丈夫そうかな。明日は仕事もないって言ってたし)
 が、無事を見届けた公子が部屋を出ようとするとガッシリと腕をつかまれる。射程ギリギリなのか、懸命に手を伸ばして止めようとしている。
「どど、どうしたの」
 射程内、つまり眠りこけている承太郎のそばに近寄るとスタープラチナは手を放してくれた。が、何をどうしろと喋るわけでもなければ目くばせやボディーランゲージもない。
「どうしろっていうの」
 公子もスタンドを使って語り掛けてみたが返事はない。が、とりあえずそこを離れようとすると止めに入るといったところか。
「うーん、スタプラ。トイレ行ってきていい?」
 リアクションは何もなかったがそう言い残せば部屋を出ることは許された。帰りに台所でグラスに水を汲んで持ってくる。
「きっと看病しろっていいたいのね。しかしまた……なんだってこんな潰れるまで」
 スタンドとは精神のヴィジョンである。無防備な姿を晒しながらここにとどまってほしいというのは、承太郎自身の願望なのだろうか。
 もしも今目の前にいるこの男と二十三年前に出会っていたなら、二人は恋に落ちていたはずである。ではこの時代に出会った二人はどうなのか。
 承太郎からすれば娘のほうに年齢の近い女など子供っぽすぎてそういった対象外なのではないか。そして公子も、今この寝顔にキスをしたいと思うのは、二十三年前の彼の身代わりに思っているからではないか。
「……おやすみなさい」
 少しくせ毛な承太郎の前髪を指先ですくってやると、消え入りそうな声でそう言った。もう立ち上がってもスタープラチナは引き止めない。真っ暗な部屋の中、青白い肌をしたヴィジョンが公子の出て行った扉を見つめていた。


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