小説 | ナノ

「身代わりだというなら、今俺が君に抱いている気持ちも、前妻の身代わりを探してのことだと思うか?俺以外の男を好きになれば身代わりではないというのか?」
「あっ……」
「無理に返事をする必要はない。こちらが一方的に今までの鬱憤をはらしているだけだ。こんなことをして、意味がないのは分かっている……分かっているんだ」
 抱きしめる、顔をうずめる、押さえつける、だけど、それ以上はしない。きっと本気で抵抗すれば手を離してくれるだろう。嫌だと言えば距離を置いてくれるだろう。だけどこの体温は、公子がずっと求めていたものと何も変わらなくて。
 思わず抱きしめられる腕の力に応えようとしてしまいそうになると、フッといきなり公子を包み込む力がなくなった。
 どうして離してしまうのか、離さないでと口にしそうになりハッとすると、承太郎が目を丸くして公子を見ている。
「ど……どうした、スタンド攻撃か……!?」
「……え?」
 自分の姿に何か異変が起きたのか。慌てて壁に掛かっている鏡を見るも、そこに映っているのはいつもの部屋だけだ。公子の、姿がない。
「どう……して」
 恐る恐る自分の手をみると、それは服ごと半透明になっている。この感覚を、知っている。何度も経験し、時にそれに抗ったが、一度として打ち勝てた試しがない。
「移動、です。違う世界への、移動」
「どこへ行くんだ。どうすればいいんだ」
「分からない。分からないんです!た……す……」
「公子!君がどこへ行こうとも俺は君が好きだ。愛している!必ず、連れ戻す!君が俺を望むなら!」
「……私、は……………………」






 公子は原作を六部まで読んでいる。その後青年誌に掲載を移したSBR以降は読んでいないのだが、何せ人気の作品である。主な登場人物の名前や彼らが辿る結末、そしてスタンド能力は大まかに知っている。
 その中に、この不可思議な現象のヒントがあることを説明を聞いた今、思い出した。世界を移動することができるスタンドが、そういえばいたはずだ。この現象を引き起こしているのはまた別のスタンドらしいのだが、原理としてはそれに近いものなのだろう。
「というわけで、その原因のスタンド使いに快く°ヲ力を引き受けてもらい、迎えに来たぜ、公子」
「……まだ卒業してないの?それとも、留年?」
「アホか」
 服装すら寸分たがわぬ、DIOを倒したあの世界線の承太郎が、公子の目の前にいる。どこともつかぬ閉鎖された空間の中で、公子と、承太郎が、二人だけ。
「今お前がいる世界に俺が乗り込んだ場合、どうも消滅の恐れがあるとかなんとかでな。公子にこっちに来てもらうしかなかった。驚かせたな」
「いや消滅て……バックトゥザフューチャーみたいな?」
「ああ、そういう映画があったな。内容はよく覚えてねぇが。っと、こんな雑談してる暇はねぇんだ。ここはその世界と世界の隙間みてぇなとこで、俺たちがここに滞在できる時間は五分もねぇ。とっとと俺たちの世界に帰ろうぜ」
「ま……って、あの、ほかの世界に行くことってのもできちゃうわけ?」
「あ?まあさっきも言ったが俺はできねぇ。が、どの世界線にも主人公子ってのは存在しないらしいからな。お前はいけるだろう」
「あ、うん。変なこと聞いてごめん。お別れを言いたい人がたくさんいるから……」
「そうだろうな。だがこの移動ってのはそう易々と出来るもんじゃねぇ。この空間から出たら二度と移動は出来ないと思え。しかし、元の産まれた世界に帰りたいってんならそっちに送る。悪いが時間がない。あと一分でどこの世界に行くか決めてくれ」










 主人公子の向かうべき先とは。DIO討伐を全員で生還した世界か。プッチの野望を生きて阻止した世界か。


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