小説 | ナノ

 今日は再度獄中へと戻ることになったエルメェスとアナスイへ面会に行く日だ。煙草なんかの嗜好品は徐倫が差し入れしているようなので、公子は日本で買った土産を手にそれぞれの刑務所へ向かった。
 午前中のエルメェスとの面会で互いの近況を少し話した。復讐を遂げたエルメェスはもうここにとどまる必要性はなく、模範囚として懸命に作業に励んでいる。その甲斐もあって、更に刑務所内での事件を解決したことに一役買ったことも認められ、刑期は当初の八年から少し縮んだようだ。もうすぐここを出ることができそうである。
 さて、問題はアナスイの方だ。
「……公子か」
「ええ。徐倫じゃなくて悪かったわね。じゃあサヨウナラ」
「つれないな」
「それ私が言いたいわ。ハァ」
「……なあ公子」
「んー?」
「俺の刑期は、なんやかんやで結局元のままなんだ」
「うん」
「……徐倫は待っててくれるだろうか」
「さあね。私からはなんとも」
「半分近くは過ぎてるとはいえ、待っててくれ、とは言えないような長い年月だ。だから、な……」
「脱獄幇助はお断りよ」
「……何故俺はこの壁の中にいるんだ。あの戦いの中で、人を……(殺したのは俺だけじゃないのに)」
 最後の部分はスタンドを通して語りかけた。見張りの看守に聞かれないように配慮するだけの心の余裕はまだあるようだ。
「(……私だって殺人の経験がないわけじゃない。なのに外でぬくぬくと生活しているのが許せない?それとも私が外にいるのならば自分だって、って思ってる?)」
「(すまない。八つ当たりだった。久々に会えた仲間に言うことじゃなかった)」
「アナスイ。変わったね。徐倫と出会ってから。徐倫が特別なのはもちろんだけど、私のこともちゃんと仲間だと気遣ってくれて嬉しいよ。その気持ちが、罪を犯したあの時に理解できていなかったのがアナスイの不幸だよ。でもその歪んだ運命のおかげで徐倫と出会えたんでしょ」
「ああ……公子。徐倫にどうしても会いたくなった。ちょっとダイバーダウンで君の顔変形させても……」
「ぶちのめすぞ」

 なんだろう。この感覚は。これは今までの五度の戦いの後に感じたことのないものだ。全ての戦いが終わって、休む暇もなく慌てるように消えていった今までと違い、それぞれのその後というやつを、じっくりと時間をかけて見届けている。
 じゃあ、自分のエピローグは?それが終わってようやく元の世界に帰るのか?
(……そんなのやだよ。自分がこの世界でやりたいことを見つけた後で、またあのときみたいに取り上げられちゃうのは)
 目をつぶると、あの空港で円になって皆が揃っていた場面が浮かんでくる。
(ちょっとした期待もあった。もしかしたら全てのジョジョを助け出したら、好きな世界に戻れるんじゃないかって。根拠も何もないけど、それくらいしか希望を持つことが出来なかった)
 いっそプッチを倒した直後に元の世界に戻ってくれれば諦めがつく。しかし非常な現実は、公子の心残りである承太郎の面影を残した、もう一人の承太郎のいる世界に縛りつける。
 いつ世界の移動があるか分からない。あのときのような別れ方はもうしたくないから、きっと公子は一生恋をしない。孤独を生きる意味を考え直しては、自分の未来に暗く横たわる影に身震いするのだった。

 そう言えばこの世界にはジョルノがボスとなったパッショーネが存在する。結局フロリダで彼と遭遇することはなかったが、血の運命には逆らえないはずだ。
 そんなときに舞い込んだ、イタリア行きの話。不思議なことに公子は日本語、英語、イタリア語を完璧に話すことができる。元の世界にいたころは英語だって「ビーフ・オア・チキン?」レベルであったはずなのだが、そこを不思議がるよりももっと驚くべきことが山ほどありすぎてあまり気にならなくなった。
 イタリアには柱の男たちが眠っていた遺跡もある。波紋使いとして、財団の調査員として、公子に白羽の矢が立ったというところだ。
 その提案に公子はすぐに頷いて返事した。イタリアにいけば少なくとも、承太郎を見ずにすむ。あの日本行きのときに思い知ったのだ。公子はこの世界の承太郎を、一人の人間として見る事が出来ない。どうしても身代わりにしてしまう。
 そんな失礼な接し方しか出来ないのならば、気持ちが落ち着くまで物理的に距離をとろう。


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