小説 | ナノ

 旅路の終着駅は、思っていた以上に呆気なく辿り着いた。プッチの野望を阻止し、傷だらけの徐倫が承太郎に倒れこんだのを目にした公子は、六度目のこの言葉を内心でつぶやいた。
(ああ、終わったな)
 しかし、いつもおこるはずのあの現象はまったく見えない。この二人が和解するところをきちんと見届けたいのだろうか?いや、確かにそれはあるのだが、今までどんなに強く留まりたいと願ったところで、無情にも世界から姿を消していた。それに思いの強さでいうならば、あの空港でのワンシーンが一番強い。
(じゃあ、どうして)
 確かに、ここで終わるのかという予感はあった。七部以降は掲載紙が違うというよりもパラレルワールドのようなものだという説明もあったから、ジョナサンとディオの因縁というのはこの世界でもマンガでもここでようやく途切れるはずなのだ。
 だから、これで公子の奇妙な冒険もおしまい。
(……で、私はこれからどうすればいいんだああああああ!)
 戸籍もない、家族もない、ついでに言うなら目的もない。感動的な六部エンディングにて、公子は早くも今後の身の振り方というものを考えなくてはならなかった。


 結局公子とエンポリオの身元は財団が引き受けることとなった。他のメンツはというと、徐倫は冤罪が証明され晴れて自由の身に。アナスイとエルメェスは今回の件は無罪の徐倫を助けるための脱獄ということで情状酌量の余地アリだが、元の刑があるので別の刑務所へ。ウェザー、FFはマンガと同じ結末へ。そして、追っ手もいなくなり、平穏な生活をつかめる条件の揃った承太郎は……。
「は?再婚?ないわね」
 娘がその平穏な未来をバッサリと斬っていた。現在、公子と徐倫と承太郎の三人で日本行きの飛行機に乗って空を移動中である。
「いくら事情があったにせよ、正直それだけで持ち直せないまでに冷え切ってるわ」
「そ、そうなのか」
「承太郎さん、動揺しすぎです」
 公子は最初承太郎に出会ったとき、どう呼ぼうかと悩んでいた。あまりにもあのときの面影がありすぎるから、いつものくせが出てしまいそうになったのだ。だから苗字で呼ぼうとしたのだが、徐倫からややこしくなると止められ、今の呼び方に落ち着いている。
「ま、ママのことは私に任せといたんでいーのよ。どうしても再プロポーズしたいってんなら、まずはそのビールっ腹をなんとかしたらァ?」
「……」
「徐倫、しばらく自力で動けなかったくらいなんだから筋力が落ちるのはしょうがないでしょ?」
「それがそんなこともないのよ。昔さ、アタシがまだスタンドに目覚める前の話なんだけどぉ、テレビのリモコンを取りに立ち上がるのも面倒くさくてスタンド使って取ってきてたりしたのよ」
「え、でもスタンド見えてないんじゃ」
「リモコンが空飛んでんだからめちゃくちゃ覚えてるわよっ!しかも一回じゃないわ、三回は見たっ!」
「見てたのか……」
 父親の面目丸つぶれの道中であったが、日本に着くと徐倫のおしゃべりは一気になりを潜めた。さすがにどこもかしこも日本語が飛び交う中でハイテンションな英語のマシンガントークは目立つことくらいわかっているようだ。
「で、まずはどこから行くの」
「実家だ。公子も着いてきてくれるか?」
「もちろんです、というより、私がいたらお邪魔じゃありませんか?」
「いーのいーの。特にホリィおばあちゃんは人が多いほど喜ぶし。サダオじいちゃんは相変わらず無愛想なのかしらー?」
 空港から電車で移動し、そこからタクシーを拾う。道中車窓に映る景色の中に、花京院と承太郎が初めて接触したあの石階段が見えた。そういえばこの世界には、花京院典明の墓がどこかにあるはずなのだ。
(私が戦ったエジプトでの道中が、無駄だったわけじゃない。わけじゃないけど、でも……)
 もしもこのままこの世界で生きていくことになるのなら、あの戦いは一体なんだったのだろう。

 相変わらずVシネにでも出てきそうな豪華な日本家屋の門扉を、頭を下げてくぐる承太郎。アメリカ育ちの徐倫も、さすがにこの家は広すぎる豪邸のレベルだと感じているようだ。
「承太郎ー!徐倫ちゃーん!会いたかっ……」
 抱きつこうとするホリィをサッとかわして背後の徐倫に受け止めさせる。さすがにこの年齢で「このアマァ……」とは言わないが、ホリィの大胆なスキンシップとそれをやれやれと言いながらかわすところは両者変わらないようだ。
「おふくろ、紹介する。俺たちの友人の主人公子さんだ」
「あら、はじめまして!!私承太郎の母で徐倫の祖母の空条ホリィと申します」
「父さんの母さんなんだから、私のおばあちゃんって言わなくてもいいんじゃない?」
「二人の知り合いってことは……何かしら危ない冒険があったのかしら?詳しく聞かせてちょうだい……徐倫ちゃんが投獄されるのを守ってあげられなかった辺りから、詳しく」
(あ、ジョースター家の人だわ。スゴ味あるわ)
 子供が刑務所に世話になるという経験はホリィにもあるものだからか、経緯は違えど同じ轍を踏む形となったことに何かしら感じるところがあるのだろう。
 三人は中に通され、長い廊下を軋ませながら奥へと歩いた。途中、ふすまの閉まる部屋を見て公子はここで花京院の肉の芽を取っていたときのことを思い出す。厳密に言うとここにくるのは初めてだ。だが同じ間取り、同じ思い出のあるあちらの家とあまりにも重なりすぎて、目の奥が熱くなるのを感じた。


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