小説 | ナノ

 大好きなマンガの、大好きなキャラクターの、行き先を、結末を、変えられるなら。

 好きな物語なのに何故手を加えようと思うのか。それは、特に思い入れのあるキャラクターが、死の運命をたどることを知っているから。
 だからこそ、未来予知の如き知識でその運命をねじ伏せる。作中ではDIOのスタンドはその名の通り世界を支配するスタンドだと言っていた。だがそれすらも、運命を知る公子の前では児戯に等しかった。
 承太郎が同じ能力を持っていることも知っている。アヴドゥル、イギー、そして花京院を死なないようにする方法だって分かる。ただ、こうやって運命を変えていくことで自分の知識外の展開も起こりうるわけだか、それはもう、自力で頑張るしかない。
 現にそうやって公子が望むハッピーエンドに、二度も話を書き換えてきたのだ。ジョナサンとツェペリさんとダイアーも、ジョセフの片腕とシーザーとロギンズも、助け出したのだ。
 そして今回の旅路もまた、空港のあのシーンに二人と一頭の姿に公子も加えて、皆で別れの挨拶をしていた。が、今回の物語はどうやらここまでのようだ。
「公子……?おい、体が透けてるぞ」
「タイムリミットってやつよ。言ったでしょ。私、ここの世界の人間じゃない。きっと今度は四部に行くんだ」
「あの与太話がマジだってことかよ!」
「誰も信じてくれなかったもん。ちょっと傷ついたよ。でもまあいいや。幻の超大団円ハッピーエンドが見られたし!じゃあねっ」
「待て、公子。あのときの返事を聞いてねぇぞ」
 薄くなる公子の腕を承太郎が掴むも、電気のような熱い衝撃により二人は弾かれる。公子はこの世界に現れたときと同じ格好で、同じ笑顔で、消えていった。
「私も、承太郎のこと大好きだった」
 残されたのは、その声だけ。置き去りにされたのは、承太郎の恋。

 抗いようのない眠気が襲ってくる。手術をしたときに全身麻酔をかけられる前「フフフ、強靭な鋼の意思でこの麻酔に耐え切っ」と考えながら、目覚めたときには手術終了後だった、という昔のバカをやっていたときを思い出す。
 この眠りから覚めると、また次の世界で、さっきとは逆に薄い体に実態が伴い、活動できるようになるはずである。
(次の舞台はきっと四部だ。杜王町についたら何をしよう。まあ何はなくとも、トラサルディーで食事だけは欠かせない。そのあとはピンクダークの少年を一気読みして、それからそれから……二十八歳の承太郎と出会う。でも、そこはもう花京院とアヴドゥルさんとイギーちゃんのいない世界。徐倫が生まれてるし、承太郎も既婚者の、原作どおりの世界。異物が混入するのは、“今”から)
 そう、先ほどの空港での別れの三部の世界でも、ジョセフは義手を使っていたし、DIOの首から下はやはりジョナサンのものだった。
 公子がどれだけ抗おうとも、誰かが死んだ世界というのは必ず残っているものらしい。だからといって自分の行いが無駄とは思わない。救済をしているとも思わない。そのときの自分が、そうしたいからするだけ。
 だが未来を知る公子でもどうしようもないこともあった。死を避けることができなかった人物もいたし、何よりも望めるものならば公子は三部の世界線にとどまりたかった。だが否応なしに戦いの渦は公子を飲み込んでいく。
 一体この連鎖はいつまで続くのだろうか。六部?それともまださわりしか読んでいない八部?外伝は?全く別のマンガは?自分が元いた世界は?何より……
(承太郎……)


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