小説 | ナノ

「公子は相変わらずどんくさいな。これしきの課題まだ終わらせられないのか」

 うそ

「公子、課題が終わっていないなら僕が手伝おう」

 こっちがほんと

 なのになぜ

 うそばかりが口をつく?


「ディオ……課題が終わってないの見て分かるんだったらちょっと黙っておいてくれない?急いでるの」
「急いでこの進捗とはな」
「黙って。まだちょっかいかけたいのなら私が移動するから着いて来ないでね」
「自意識過剰だな。誰が君の後を追うかよ」
 椅子が床を引き摺る音が耳障りだ。公子は立ち上がると手早く机の上のノートとペンをまとめ、本の貸し出して続きを済ませて図書室を出て行った。
 あとにのこされたディオは不機嫌そうに鼻を鳴らし、彼女の座っていた席に座る。図書館へやってきたというのに本を開くことなく、ここで勉強していた公子の横顔を思い出しては机に頭から突っ伏した。
(またやってしまった……)
 本当は、今日こそは食事に誘いたかった。今日こそは今までの暴言を水に流したかった。今日こそは……。
(何度、今日こそはと言えばいいんだろう)
 目を閉じれば思い返される今までの日々。顔を合わせるたびにディオの口から出る失言、暴言、問題発言。
(大体公子がいけないんだ。アイツが僕になびかないのが悪い……いや、これもうそだ。そんなこと、思ってない。そう考えることで惨めな自分を忘れようとしているだけだ)
 寝返りを打つようにごろりと頭を出入り口方向に向けると、とうとう公子がそこに立って自分を待ってくれているような幻覚まで見えるような気になってきた。少し不機嫌そうな顔をしている公子。ディオの前ではいつもこの顔だ。
「本当は君を食事に誘おうと思ってたんだ」
「えっ」
「え」
 幻覚ではない。紛れもなく実体を持った本人の姿に、ディオは慌てて飛び起きその反動で後ろへと転んだ。
 あのディオのみっともない姿に周囲は徐々にざわつき注目を集め始めたが、ディオにとっては路傍の石程度にしか思えないどうでもよいことである。
 深呼吸して、倒れた椅子を直しながら目線を決して合わせずにこう思いながらこう言った。
(うそはもうつかない、うそはもうつかない、うそはもうつかない、うそはもうつかない)
「公子、君を食事に誘っているんだ。返事は!?」
「……課題終わってないの知ってるでしょ。忘れ物取りに来ただけよ」
「僕に誘われたのならばOK以外の返事をするな!」
「はぁ!?むちゃくちゃ言わないでよ!?」
「図書館では静かにお願いします」
「……すみません」
「フン」
 うそはつかない、と心に決めたら、本来ならば隠すべき偉そうな本音もそのまま出てしまったようである。
 うそをつかなさすぎるのも、それはそれで問題だ。


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