小説 | ナノ

※スタクル敗北後ifです。

 我がスタンドは「世界」を支配する能力。
「ではDIO様、世界とはなんでごじゃいますか」
「エンヤ婆。それは哲学的な問いか」
「左様でごじゃいましゅ。あなた様が定めた定義こそが世界。この老いぼれに今しばらくの夢を見させてくだしゃると言うならば……ぜひ問いに答えてくだしゃれ」
「世界……それは……」
 ジョースターの血を根絶やしにした。遥か遠く、東に弱くなにやら気配を感じるが、スタンドの制御も出来ぬジョナサンのひ孫の女の残り僅かな命だろう。この百年、海底でずっと考えていたただ一つの目的。それを遂げたのだ。
 だが不思議に思う。ジョースターの抹殺と世界の支配は私の中でイコールであった。しかしジョセフ、承太郎の血を吸い尽くした今、世界を支配したという実感がない。私の歩むべき覇道に転がる邪魔な石を蹴り飛ばしただけだ。
 あのときのエンヤ婆の問いに答えてやれぬまま、彼女は死した。もしも今、霧がエンヤ婆を形取り同じ問いをしてきたのならば、私は応えてやれるだろうか。

「せーかいーは、せーまい。せーかいーはー、おーなじ。せーかいーはー、まーるい。ただひーとーつー」
「そうなのか?」
「は!DIO様!」
 ボインゴが絵を描きながら鼻歌を歌っていたものだから声をかけた。この子供は私を恐れているというよりも、兄以外の人間と話すことが怖いらしい。このDIOを他の連中と同じように感じているとは興味深い。
「世界とは狭く、同じで、丸く、一つしかないものなのか」
「え、えと……」
「お前なりの解釈を語りなさい」
「あ、はい。えっと、この歌の世界っていうのはつまり、ち、地球のことだと思うんです、ハイ」
「世界とは、地球」
「は、はい」
「では宇宙とはなんなのだ。世界は何で隔てられているのか」
「DIO様にも分からないことがあるんですか?ぼ、ぼくはDIO様みたいに聡明じゃありませんので、も、もう質問の意味からして分からないわけで、はい」
「ふむ。いや、お前にしてはスケールの大きな答えだったから少し驚いただけだ。お前の世界とは、兄とスタンドしかいないものだと思っていたからな。あ、あとホルホースか」
「そ、そうですね。ぼくの世界はそれだけです。でもホルホースはいません。そんな風に、一人ひとりそれぞれの世界が集まるのが、ち、地球なんです、ハイ。だから、ぼくの世界はぼくの周りだけですけど、世界そのものというのが、地球なんだと思うんです、ハイ」
 年端もいかぬ子供にこういった問いをするのもつまらんだろう。気まぐれに頭を撫でてやって私はその場を後にした。
 しかし、子供ならではの視点での話を聞き、新しい考えに至った。世界とは、各個が持つもの。では世界を支配するとはやはり、人間を支配することか?

「ではDIO様の世界とはどのようなものでしょうか」
 生意気にもテレンスの方から問うて来た。この男は承太郎に全身の骨をへし折られながらも何とか回復し、また私の周囲の世話をしている。
「私の世界か」
「はい。人類を支配することが世界なのだとしたら、ボインゴの定義にあてはめるならばDIO様は人類を皆家族のように思っているということになるのでは」
「……ふむ。私は実はめちゃくちゃイイヤツだったのかもしれんな」
「お戯れを」
 ワインの準備を終えるとヤツは部屋から下がる。ヴァニラのいない館はどこか静かに感じてしまう。それが寂しいという感情ではないが、私に心酔し、私のために死んでいった者へ何も思わないわけではない。
(皆よく戦い、死んでいった。これも私の世界の一部なのやもしれん)

 そんなことを考えていたら、確かに家族を持つということは一つの世界を築く行為なのだろうという結論にたどり着いた。他人の世界を支配するのと、我が世界を生み出すのはまた別物だ。ジョースターを倒し、私は確かに世界を支配した。だがボインゴですら持っている自分の世界というものを、私はまだ持っていない。
(ジョナサン、お前の世界は、どうだったんだ。あの田舎娘と添い遂げることでジョセフや承太郎が生まれ、この私の世界を脅かそうとした。家族を持つということは、きっと……)
 そういえば私には数人息子がいる。いた、なのかもしれないが。この館に食料として自ら訪れるような女が母なのだから、半分は私の血をひいていたとしても(いや、ジョナサンの血なのか?あのときはまだボディが馴染んでいなかった)ロクでもない子供に育つだろう。
「……いたな、ロクでもある女」
 そうだ。今まで殺さずここに監禁していたのは、公子が私の世界を作る片割れに相応しいとどこか運命めいた直感があったからなのだ。
 地下牢のカギを取り、螺旋階段を降りていくのは最早日課だ。決して私に従属せず、愛想の一つも見せないこの女に、私はエリナ・ペンドルトンを重ねて見たことがある。私の首から下がそうさせているのだろうか。いや、ボディが完全に馴染んだ今も、私は彼女を愛すべき女性と見なしている。
 猫のように丸くなって眠る彼女を、鉄格子を挟んで見つめる。今夜、彼女と世界を作ろうか。しかしこれが答えだとしたら、エンヤ婆はどう思うのだろうか。小娘にほだされた情けない帝王だと叱り付けるだろうか。
「公子。起きろ」
「……吸血鬼っ!」
「子作りの時間だ」


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