小説 | ナノ

※現パロ大学生設定。現パロなので名前もディオ表記になってます。

 実は可愛いもの好きだし、甘いものも食べたいし、フリルのスカートを着てみたりもしたい。ただどうしてもイメージの先行がありすぎるようで、主人さんはいつもパンツスタイルでビシッと決まってる女性、を崩せずにいた。
 だからこそなのか、いつも公子の周囲に寄り付く男と言うのはどこかMっ気があるというか、お姉さんタイプの女性に引っ張られたい性格ばかりだった。
(本当は逆よ。私だって、男の人にリードされたいと言うか……ううん。承太郎に、引っ張って欲しい)
 チラリと目線をあげて大きな背中を盗み見る。シャツ一枚を隔てても分かる、引き締まった筋肉。その太い腕で抱かれたいと思っているのは自分だけではないということはよく分かっているのだが、いつまで経っても思いを告げることが出来ない。
 承太郎の女嫌いは有名で、そばにいて怒られないのは姉御肌の公子くらいなものだというのが現状に甘んじる最大の原因である。周囲にライバルがいないという安心感と、告白してしまうことで承太郎の嫌う女になってしまうのではないかという恐怖。
「主人。俺飯食いに行くけど一緒にどうだ」
「いいね」
 男性から食事に誘われると、どんな店に行くことを想像するだろうか。カフェ?パスタ専門店?静かな蕎麦屋なんかも風情があっていいと思うし、この際カウンター席のラーメン屋でも構わない。だって隣に座れるから。
(別にね、オシャレっぷりを求めちゃいないのよ。一緒に食事できるだけで幸せだけど)
「すた丼特盛りのお客さまー」
(ここまでにんにく臭のする店って……やっぱり私異性として認識されてないんだわっ!)
 二人の前に置かれたどんぶりは、これでもかとにんにくやら生姜やらの濃い味付けのされた肉がどかっと盛られたいわゆる「男のメシ」だった。
(まあ美味しいんだけどさ)
 大きなどんぶりも承太郎が持てば茶碗に感じてしまう。豪快に米をかき込む姿を見て、そのワイルドさにまたドキッとして食事を終えた。
 そう、いつもこれだけ。どこへいってもなにをしても色気のある展開なんてまったくない。

 二泊三日でゼミのフィールドワークに行かないかと誘われた。誘ってきたのは承太郎、ではなく。
「どうして私が?」
 二年先輩のディオだった。
「理由か。もう一度言った方がよさそうかな?私は君を実に気に入っている。私は君の……」
「あー、もういいです。でも私とディオ先輩全く勉強してる分野違いますよね」
「ああ。ただの付添い人として来ればいい」
「他に誰か来るんですか?」
「私だけだ」
「じゃあ遠慮します。お付き合いしていない男性と泊まりで出かけるなんて論外です」
「承太郎の家に泊まりこんでレポートを仕上げるのは構わないのか?」
「!?」
「友人の家に遊びに行ったら、珍しく洗面所に女性用のヘアアクセがあったから訪ねてみた。弟の友人が泊まった時に忘れていったものらしい」
 ディオの手には黒いバンスクリップがある。はめ込まれている紫色の石は、間違いなく公子が自分で作ったものだ。
「それ!」
「承太郎という男について少し調べさせてもらった。どうも君の片思いのようだね」
「はぁ……?」
「ほう、ここまで言ってもとぼけるのか。まぁ構わない。私とて、君があの男を好いているのだと面と向かって言われたくはない。何せ私は君を……」
 この男と、部屋に二人きりになったこと自体が問題だった。そう公子が反省する間も与えず、ディオが公子を壁際に追い詰め手を掴んで顔を近づけた。だが、唇同士はまだ触れ合わない。
「初めて見たときからずっと思い続けているのだから」
「それは以前も聞きました。でもお断りしたはずです。それに、前もこうやって強引に迫ってきましたけど、私、こうやって物みたいに扱われるの好きじゃありません」
「ああ。あれから極力優しく君に接してきたつもりだ。強引に引き止めなくとも君は貞淑で聡明な女性だと思っていたからね。だが、聡明ではあるが貞淑さには欠けたようだ。男の家に外泊するようなふしだらな女であるならば遠慮も不要」
 手作りのバンスクリップで前髪を止められる。手が離れた瞬間自慢の顔を殴り飛ばしてやろうと平手を放ったが、乾いた音が響くだけでダメージどころか動きを止めることすら出来なかった。
 ディオがネクタイを外し、それで公子の両手首を縛り上げる。その手際のよさで直感してしまう。ディオはこういった行為に慣れており、何の躊躇もなく最悪の結末までことを進めてしまうのではないかと。
「やはり君は聡明だ。もう私が何をするのか全て悟ったようだな」
 逃げなくては。ネクタイを噛み、口で解こうとすると今度こそキスで最後の抵抗を封じられた。
「承太郎さえいなければ、もう少し事は穏便に運んだのだろうか。君が……私以外の男を見なければ、こうなることもなかったのだよ」
 縛られた手を、今度はベルトで棚にくくりつける。これで完全に手を動かすことが出来なくなった。
 あの承太郎よりもさらに大きく見える体が、鍛え抜かれた腕が、公子を奪おうとこちらにのびてくる。
「諦めろ。ヤツは君を微塵も想っていない。よき学友としか考えていない」
 分かってはいることなのだが、こうして言葉にされるとやはり傷つく。しかも本人でもなんでもない人になぜわざわざそんなことを言われなければならないのか。
「私なら、与えられる。ただし与えただけ、君から奪う」

 初めては、あの逞しい腕に抱かれながらなのだと妄想したことがある。
「どうやら、そこまで不埒ではなかったようだな」
 その腕とよく似た、けれども違う男の腕が、公子の腰を掴んで離さない。
 地面に落とされたズボンの上に血が落ちる。
「スカートをはいておけば汚れることはなかったな。たまには君のスカート姿も見てみたい。」
「離してっ!」
「離してくれないのは君のほうだ。私の意識を支配して離さない。君のことしか考えられなくなる」
 最初に入れられた指とは比べ物にならない激痛が走る。圧倒的に質量の違うそれを飲み込むには公子の体はまだ固すぎた。熟していない果実のように。
「こんな形で君と結ばれるのは若干不本意だが、それでも他のヤツのほうを向いたままよりははるかにマシだ。それに心に空しさはあるが、体は……フフ、快楽で溺れてしまいそうだ」
 言葉通りディオは自虐的な笑みを浮かべた。体と心が乖離している不思議な感覚。最愛の人を傷つけているのに気持ちいい、傷つけているのに自分も傷ついていく。
 互いの腰をぴったりと合わせ、一番奥に触れた状態でのの字を書くように腰を揺らす。奥をかき混ぜられる恐怖と苦痛を裂いて恍惚が見え隠れしていることを、公子は認めたくなかった。
 実は少女のような一面があるというのは、趣味だけではない。性の経験も、知識も、同い年のクラスメイト達に比べてかなり浅い。ディオの腰の動きが激しくなることが何を意味することなのか分からず、腹の中でじわりと液体の広がる感覚を覚えてようやくその考えにいたる。
「ま……さか」
「血だけでなく、精子でも汚してしまったようだな、君のズボン。これからはやはりスカートをはくといい」
 実は可愛いもの好きだし、甘いものも食べたいし、フリルのスカートを着てみたりもしたかった。
(絶対に、スカートなんてはかない)
 こんなときでも公子は涙を流すことがなかった。気丈さを忘れてこの男の前で強さをへし折られるマネだけはしたくない。けれども承太郎の顔が浮かんでは消え、その顔に泣きたくなった。


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