小説 | ナノ

「ちょっと声かけられてただけじゃん。しかも私、完ムシしてたじゃん」
「無視しきれずに最後何か言ってただろ」
「うっおとしいぜ、ってことを言っただけよ」
 デートのために待ち合わせていた広場でポルナレフが見たのは、背と鼻の高い男に声をかけられている公子の姿だった。公子はポルナレフの姿を見たとたんそちらに駆け寄ったのだが、ポルナレフからしてみれば二週間ぶりにあう恋人の姿がナンパされているものなのだから気分が悪い。
 だが公子としてもあれ以上の対応がしようもないので公子の言うこともよく分かる。頭で理解は出来ても気持ちは納得がいってないのだ。
「いいか、日本人は狙われやすいってのはスリや詐欺だけじゃない」
「そういえばフランス人は私がジャパニーズなのかチャイニーズなのか見分けついてるの?」
「え?うーん。俺は公子たちに会うまでよくわかんなかったなぁ」
「じゃあどうしてジャパニーズだけが被害に遭うの」
「中国人は、こう、怪しいと思った瞬間すっげぇでけぇ声で叫ぶんだよ。テメェ、オレの財布に何の用があるんだ!ってな。日本人は何か自分の周りをウロウロしてるなー、ふーん、で終わるからダメなんだ。公子も、変な男に声かけられたら怒っていいんだからな!」

 DVDを借りて、ワインとチーズを買って、ポルナレフの自宅へ戻る。家デートというやつだが、家に行くまでに食べ物を買い込むときが一番楽しい。家で買ったワインをあけているときも楽しい。DVDをセットしながらポルナレフがぽつりと呟いた。
「このまま公子をこの家に閉じ込めておけりゃあな」
「え?」
「そうすりゃ妙なヤツに目ぇつけられずにすむだろ」
「まだ引っ張ってんの?」
「だってよぉ……この映画みたく誘拐されちまうかもしんねぇだろ。いかがわしいホテルなんかに」
「私ゃセガールの娘か!あとそれは誘拐とは言わないしあと今から見る映画のネタバレをなぜするの!」
「冗談だって。たださ……お前がずっとこの部屋にいてくれれば、俺が仕事から帰ってきたときに出迎えてくれるなって思ってさ」
 広い家だなとは思っていた。そりゃそうだ、四人家族が住める家なのだから。だからこそ一人でいれば余計に広く感じる。使わない部屋に思い出が篭って埃が積もる。
「バカ。それくらい閉じ込めなくても出来るでしょ」
「どこにも行かないでくれ、公子……」
「行かないよ。むしろポルナレフがどっか行っちゃいそうだけど」
 シェリーを失った日からはじめて、ようやくこの家にも火が灯る。


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