小説 | ナノ

 事前準備をみっちりしていたからか仕事は順調に進み、十八時を回った頃には片付けも含めて全てを成し終えた。
「お疲れ様です。何か飲みますか?」
「主人」
「何でしょう」
「職場を変えたくなったか?」
「いえ。あの発言のことならお気になさらず。それよりもう少し早めに論文作成に取り掛かるようにしてください」
「わたしとしては、君に気にして欲しいんだが」
「つまり、してほしいと?」
「そう言う意味で言ったんじゃない。まぁ、否定はしないが。そうじゃなくて、君を一人の女性として意識しているから、不快に思うなら別の研究室を紹介するということだ」
「正直、ここ以上に仕事がやりやすい場所があるとは思えませんし、博士からどう思われていてもあまり気になりませんので。問題があるとすれば、博士のお気持ちに応えることが出来ないのが心苦しいということでしょうか」
「ハッキリ言ってくれて構わない」
「いえ、博士のこと、嫌いではないです。それに、素敵な男性だとは思います。ただ、今までそういうことを考えたこともなかったので……」
「ずるいな君は」
 ここには押し倒すベッドもなければ、追い詰める壁もない。だからせめて、公子の細い手を握る。
「その答えでは、もう少し押せばOKしてくれると期待してしまう」
「そういうつもりで言ったわ……む……」
 掴んだ手を引いて、よろけたところを唇で受け止められた。同時にこの話を終わらせようとする言葉を塞ぐ」
「まだ自分が思っていた以上に若かったようだ。止まらない」
 公子の両膝が承太郎の座る椅子についている。そこから離れるのに力を加えるべき手は承太郎の手中。ここから降りることができない。
「好きだ。ずっとこうしたいと思っていた。あの時口走ったことも……本当は、して欲しい」
 囚われた手が導かれたのは、体の中心。先ほど目にした膨らみに、今度は触覚で存在を感じる。
「君を見ていると、仕事中でもこうなってしまう。仕事中は極力考えないように務めるが、それが終わればもう、ダメだ。ココに、君が欲しい」
「博士の押しって、意外と情熱的なんですね」
「思ったことを隠すのをやめただけだ」
「あ、の。そんなにお辛いんでしたら……その……」
 目を伏せる仕草がその続きを語っていた。承太郎は公子の手を離しバックルを掴む。ボタンとファスナーを一気に下ろされるとその隙間からは下着の色が覗いており、ふくらみの先端は濡れて色が濃くなっている。
「限界だ……してくれ……」
「……はい」
「君のことだからまだ勘違いしていそうだがハッキリ言っておくぞ。好きという気持ちが先だ。気持ちが暴走して、体にも欲しがっているんだ。愛している」
 この状況下の愛しているがどれほど説得力のないものか、公子も承太郎も分かっていた。だが、それ以上にこの二人の大人はダメだった。駆け引きを知らない承太郎と、流されることしかできない公子。返事もしないままに、体を洗うこともベッドに行くこともなく、仕事場というある種不可侵でなければいけない場所で、承太郎は滾ったモノを空気に触れさせた。
 限界、と言っていた言葉通り、それは既に出来上がっていた。先端に透明な粘液が球体の形を成して、今にもこぼれそうになっている。それを躊躇いながら舌ですくい上げると、承太郎の体が跳ねた。
 公子とてもう成人してしばらく経つような年齢だ。こういったことをしたことがないわけではない。だが近年は仕事が恋人という状態で、異性に触れるような機会もなかった。目の前にあるものをどうやって扱えばいいのかもう忘れてしまっている。まるで処女のような手つきであったが、やっていることは娼婦そのもの。上顎と頬と舌で、それを扱く。
「っ!」
「痛いですか?」
「いや、出そうになっただけだ」
「出してもらわないと困るのですが」
「……もう少し、こうしてほしい」
「博士がイヤじゃなければ、仕事中以外はお付き合いします」
「それは、告白の返事と捉えていいのか」
「告白の返事じゃなきゃ、私とんでもない女じゃないですか」
「だったらきちんと、わたしが好きだと言ってほしい。今」
 唐突に口淫だけでなく、愛を語ってほしいとまで要求され、公子はそちらのほうに照れや恥ずかしさを覚えた。誤魔化すように、口を性器で塞ぐ。
「あっ……ずるいぞ……」
 返事はぴちゃぴちゃという音だけだ。しかし、耳まで真っ赤にしながら奉仕する彼女の姿は、より興奮を高めた。無言ながらも照れている顔だけで、再度精液が上り詰め溢れようとするのが分かる。
「主人、もう出そうだ」
「ど、どうぞ」
(それは口の中に出していいということなのだろうか)
 という疑問を声にしようと吸った息が、音にならずに漏れ出て行った。この一週間溜めていたそれは呆気なく達し、痙攣するように体を震わせる。
 イッたばかりで敏感になっているものを公子の口が離さない。おそらく今、承太郎のそれが栓の役割をしているのだろう。今抜くと精子が床を汚してしまう。だからといって、このままゆるゆると舌を当てられ続けていれば変な声が出そうになる。
「主人。無理に飲み込まなくてもいいから、口を離すんだ」
 そう言って椅子のキャスターを使って体を遠ざけようとすると、公子の手がぎゅっと腰を掴む。
(分かってる。室内で吐き出したくないというだけなのは分かってる。だがこれは……わたしのモノを咥えていたいと言っているように見えて仕方がない)
 妄想は再度承太郎を勃ちあげさせる。ようやく口の中の液体を体内に飲み込んだと思った矢先、柔らかかったはずのものが固く、熱くなっていくのに公子は目を丸くした。
「あの、まさか……」
「今度は君も気持ちよくなろう。おいで」
「えっと……博士、避妊具はお持ちで?」
「……いや。しかし……」
「まさかとは思いますが、外で出せば構わないだろうとか思ってませんよね?」
「……思ってない」
 明らかにがっかりしている四十路の男を見て、公子はため息をついた。


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