小説 | ナノ

 空条承太郎といえば学校の有名人であり、共に旅立つまで個人的に話をしたことのない公子でも顔と名前と評判は知っていた。
 不良という側面以上に、あまり感情を表に出さない大人びた雰囲気が近寄りがたく、旅の道中も彼の笑顔はほとんど見たことがない。ほとんど、であって全くではない。例えば敵をぶちのめすときはなかなかいい笑顔をしているし、ポルナレフがアホなことを言うとフッと笑う。
 今公子に見せている笑顔はどちらかというと前者の方だろうか。いたぶれる相手を目の前にしたときのいい笑顔の方だ。
「食っちまいてぇな」
「その顔と言い方だと冗談に聞こえないんだけど」
「冗談じゃねぇからな」

 このような状況に陥ったのは、公子の警戒不足が原因だ。昼間に借りた小銭を返しにきたという理由で部屋を訪れた承太郎を、何の疑いもなくあげた。しかも自分は風呂上りで、短パンにジャージというラフな格好だったのだ。素足全開のこの格好を前にした男子高校生が、やましいことを考えないはずがない。
「もうお金は受け取ったから、部屋帰りなよ」
「悪ぃな、この状態で廊下をうろつくのはどうかと思ってよ。治まるまでここにいさせてもらうぜ」
「ちょっ、そんな堂々と足開かないで!」
 制服のズボンを押し上げるそれを隠そうともせず、むしろ椅子にどっかり座るその姿勢は見せ付けているようにも思える。
「生理現象だから仕方ねぇだろ」
「少しは恥らってよ!」
「俺が恥らうとこ見てぇのか?」
「うーん、よく考えるとそれはそれで気持ち悪いね」
「だろ?そんなに帰ってほしいんなら、これを治める手伝いをしてくれてもいいんだぜ」
「OK」
 公子はテレビをつけ、ニュース番組のチャンネルを探す。画面にはベテランアナウンサーと思しき四十代程度の男性が、カメラを真っ直ぐ見つめながら異国の言葉を喋っていた。
「ほら、見詰め合ったらどう?オッサンと見詰め合ってればすぐに戻るよ」
「そうきたか。だが俺がそういうことを言いたいわけじゃないのはわかってやってるんだよな?」
「うん。だから私は他の人の部屋に避難する。まさかそのまま追いかけてくるわけじゃないよね?」
「ま、まて。まさかその格好のまま出るつもりじゃあ……」
「着替えてるヒマなさそうだからね」
「それはやめろ!いいか、俺がこうなってんのはお前のその足が原因だ。その原因を他の野郎共に見せに行くな!」
 思わず発現したスタープラチナにぐいぐいと肩を押され、公子は部屋の中央に戻ってきてしまった。
「その格好がどんだけ男を挑発してるかわかってねぇようだから、ひとつ、俺が直々に教え込んでおかねぇとな」
 ズボンのテントはさきほどよりもはっきりと主張を強めている。普段激しい戦いを繰り返しながらも冷静な表情の承太郎が、肩を上下させるように呼吸を荒げ、瞳には炎のような熱を灯している。
「食っちまいてぇな」
 公子は道中で出会ったDIOの配下のスタンド使いの末路を思い出した。こうやってニヤリと笑った後は気の済むまでオラオラするのはよく知っている。だが自分は敵ではないのだからオラオラされる理由はない。オラオラはされないが、じゃあかわりに何をされるのかは……。
「その顔と言い方だと冗談に聞こえないんだけど」
「冗談じゃねぇからな」
 気の済むまで一体何をされるのやら。


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