小説 | ナノ

 こうなってしまったのは僕の責任だ。肉の芽で操られていたとはいえ、僕は最も大事な女性を最も下衆な男に引き合わせてしまった。
 初めて出来たハイエロファントの友達。その本体である公子と僕も友達になりたかったと思っていたのは、出会って数ヶ月の間だけ。その後は友達じゃ物足りなくなって、何度気持ちを打ち明けようかと迷い、その度に躊躇し、僕達の関係はよき友人という沼に停滞してずぶずぶと抜け出せなくなっていた。
 まだあの吸血鬼に「様」を付けて呼んでいた頃だ。僕はアイツに優秀なスタンド使いがいるのだと嬉々として報告してしまったのだ。興味のない素振りをしながらも、アイツは虹村という日本人男性に肉の芽を授け、彼女を配下に引き込むよう命令していた。そんなことになっているとは全く知らず、アイツを討伐した僕達を見た公子は瞳に狂気を浮かべ、灰になって流れていく風をぼんやりと見つめていた。
 スタープラチナによって肉の芽は取り除かれたが、エジプトで厚遇を受けていた公子はあの恐るべき吸血鬼が悪人だということを信じられないようで、アイツのために涙を浮かべた。
 だが人を殺していた証拠を目の当たりにし、錯乱して僕らに殴りかかってきたことを謝罪するまでにはなんとか落ち着いたようだ。それでも心に受けた傷と衝撃はそう簡単に回復しない。実は悪いやつでそいつは僕たちが倒しました、めでたしめでたし、とはならない。
 君の心に傷を作ってしまったのは、僕が原因だ。決してあの吸血鬼ではない。だから僕が、責任を取らねばならない。

「愛していたのか?」
 僕の問いに、最悪の返答をする。ゆっくりと、首を縦に振ったのだ。
「……吸血鬼だということを知ってもなお、愛していると言えるのか?」
 その問いにも、また同じように返事をする。彼女が頷く仕草がリピートされる、まるで悪夢だ。
「人類を食料とする生き物だ。さらに君や僕のスタンドを人殺しに使おうとしていた」
「そんなこと、されてない。額は痛むけど、彼は優しかった。でも花京院くんの言うこともちゃんと頭で分かってる。感情がついてくるまで、そっとしておいて……」
 優しかった?アイツが?それは非常食を保存するのに最適な環境を整えていただけじゃないのか?アイツが愛を与えるだって?ならば僕が今まで君に注いできたものを、何と呼べばいいんだ。
「僕には君を癒してあげることは出来ないの?」
 お願いだ。もう、頷かないでくれ。
「そっと、しておいて」
 こくんと頷き、僕を突き放すようにそう言った。ああ、僕は君を癒すことが、傷を治してあげることが出来ないのか。
 だけど僕は自分の責任を果たさねばならない。僕は君から、アイツを忘れさせなければならない。
「僕たちはこのスタンドが見える、本当の絆を結ぶことが出来る相手にめぐり合えなかった。だから、愛情というものが常に枯渇しているように感じるのは僕もよく分かる。だけど君のスタンドを見つけることが出来たのはアイツじゃない、僕だ。何故僕を見ない。僕なら、本当の愛情を君にあげることができるのに。そして、君の愛を受け止めたいと願っているのに」
「ごめんなさい、本当に、今は……」
「忘れてしまいたいかい?その辛い気持ち、癒すことが出来ないなら、もっと強い衝撃で消し飛ばしてあげる」
 本当に僕のことを見ようとしなかったんだね。すぐそこまでハイエロファントの触手を張り巡らせていたのに全然気づいてないみたいで、足元から這い上がるように全身に絡みつく触手に驚いた顔を見せた。
 首は固定した。もう頷くことは出来ない。僕の視線から逃れることも出来ない。君に出来る抵抗は唇を硬く閉ざすだけだ。
「泣くほどイヤだった?」
「違う……DIOさまが、こうやってキスしてくれたこと思い出して」
「まだ、あんなやつの名前を……っ!」
 君の思い出が吹き飛ぶより先に、僕の理性が消えてなくなった。ヤツを彷彿とさせる黄色いワンピースを引き千切る。
「泣いても無駄だよ。ヤツは二度と君の前に現れることはない。だから僕が、今まで以上の愛を教えてあげる。もう、躊躇わない」
 そこに触れるのはハイエロファントといえど許さない。君の中に進入していいのは僕自身だけだ。するりと入る指が、彼女の純潔が失われたことを感じさせる。
「初めての男は忘れろ。最後の男だけを見ていればいい」
 君の記憶を、全て上書きしてやる。


prev / next
[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -