幼少期編


フラフラと当てもなく歩いていると、遠くから聞こえてくる声に喧嘩かなと思いながらナマエは声の元へと近寄って行った。


「(喧嘩かぁ。ここの喧嘩ってどんな感じかなぁ。歌舞伎町みたく面白いのかなぁ。だったらいいなぁ。野次っちゃおうかなぁ。いいよね野次っちゃっても、喧嘩は周りが盛り上げてなんぼなところがあるし、そうだね。今の私ならいい野次が出来ちゃう気がするし、よーし、テンションあがってきたぁ!!)」


ちょっと覗くどころか、ウキウキしていますという効果音さえ出してしまいそうなくらいなテンションで人だかりの中心へと入って行くと、そこで見た光景は、ナマエが想像していた場面とは違う光景が繰り広げられていた。


「(なんだよ。喧嘩かと思って上げきっちゃったこのテンションどうしてくれるんだよ)」


溜息をついて状況を把握しようかと思い見つめていると一人の子供はつかまり、もう一人の子供は踏みつけられている。
踏みつけている男の周りには10人程度が笑っていた。
くだらない。興醒めだよと思いながら、観客と化している周りを見渡すと、不安や憐みなどの視線を投げかけているが、誰一人として助けてやろうという思いがある人はいなかった。
そんな彼らを見て、ナマエは大の大人が皆して、マジほんと興醒めだしと心の中でポツリと呟くはずだった言葉は、声に出していたらしく、何故か静まり返った数秒後ナマエの周りにいた人たちは5歩ほど離れていった。


「いやいやいや、ちょいちょいちょぉぉい!なんで離れちゃった?え、私ビックリなんだけど、なんで遠ざかってって、あ、待って、なんで目を逸らすの?っていうか、聞こえてるよね私の声。だってこんなに近いし、今もこんなに声出しちゃってるし?聞こえてるよね?誰か答えてくれないかなぁ。なんかこのままだとホラ、なんていうか、寂しい子みたいな、ね………あの、聞いてますか?」


これなんだか苛めみたいだからと続くはずの言葉は、人だかりの中心にいる男たちから発せられた言葉に掻き消された。


「ねぇちゃん、珍しい恰好してるじゃねぇか。それに、女の分際で言ってくれるなぁ」
「ちょっとぉぉ今言ったの誰ですかぁ、その言葉は頂けないぞぉ。女の分際って差別ですかぁ。だいたいこれからの時代は女がしょって立つようになるんですよ」
「それに、俺らを誰だと思って言っているのか分かっているのかな?」
「(無視した!?)」


男のその言葉を聞いたナマエは首をかしげてから少し距離を取られていた周りの人に相手の男を指差しながら、え、あの人有名人なの?顎が割れてるから、顎的な意味で?と聞いていた。
ナマエにとったら、とぼけ具合も相手のおちょくった態度(に見えること)も普通なことなのだが、彼らにしたら完全におちょくられていると感じ、彼らの怒りは募っていくばかりだった。


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