幼少期編


カシム視点―

今までどこにいたのかも分からないのに、突然帰ってきた俺とマリアムの親父。
こんな男を親だとは思ってなんかいないが、それでもどんなに否定しても、この男と血が繋がっているのも確かで、悔しい気持ちでいっぱいだった。
しばらく姿を見ていなかったから良かったが、この男の姿を見ると、アリババに対しての劣等感が生まれてくる。
あいつは…アリババはいつも真っ直ぐで、輝いているようで、本当はこんなことなんか考えたくもないのに、俺とは違う人間なんだと考えてしまう。
同じスラム街で生まれて育ったのに、どうしてこんなにも違うのかって苦しくなる。

殴られて地面に倒れて、泥まみれになりながら目の前のこの男を睨みつけると気合の入った声と同時に蹴飛ばされて壁へと飛ばされた親父の代わりにその場所に立っていたのはナマエだった。


「…ナマエ!?」
「はーい。ナマエさんですよー。あらあら、いつもの威勢はどうしちゃったのかなカシム君。まるで借りてきた猫のようになっちゃってさ。いや、最近の猫の方が威勢はいいか」


いきなりの状況で、何が起きたのかついていけてない俺に、ナマエはいつもの様ににんまりと笑いながら俺を見ていた。

全然かっこよくも無い筈なのに嬉しくて、悔しくて、それでも俺の中では今のナマエの姿が焼き付いて、情けない気持ちも相まってか、俺の口から出た言葉はなんでここにと皮肉めいた言葉だった。


「何でって、そりゃ決まっているじゃないか」
「?」
「ヒーローってものは、ピンチに登場するのが相場ってものでね」


平気か?と訪ねながら俺の前にしゃがみこんだことで、今まで見えなかったナマエの後ろが見えて、そこにはそこらに落ちていただろう木の棒を振りかぶっている親父の姿が見えて、とっさに危ないと叫ぶと同時に、ナマエは今まで持っていた食べかけのイカの串焼きを親父の足元へと向かって投げて地面に突き刺し、残り三〜四メートルだった距離から近づけずにその場でたたらを踏むことになった親父はナマエを睨みつけていた。


「いきなり出てきて、誰だ女」
「別に名乗るほどのものじゃないですよ。強いて言えばカシムの……(あれ?何になるんだ?友達かな?悪友かな?えっと、どうしよう)」「なんだ女。息子の知り合いか?」
「えっと、彼女」
「嘘でも嫌だ!」
「おまっ!助けたのにその仕打ち、例え思春期特有の恥ずかしい年頃だからって今のは男として最低だぞ!」


こんな時にまでふざけているのか真剣なのか分からないナマエに軽く頭が冷静になっている俺が確かに居た。


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