ヒーロー
「私、ヒーロー大好きなの」
友人が言う。
私は明らかに不服っていう表情を浮かべて、その友人に言った。
「私はあんまり好きじゃないかなぁ」
そういうと友人は大きく目を見開いて、人前だというのに大きな声で「なんで!?」と驚いた。
「だって、ヒーローって人の命も奪うから」
スーパーマンが壊したビルで亡くなった人も大勢いる。
だから、ヒーローに対していい思いはしていない。
「でも、悪人をやっつけてくれるのよ?」
何も知らないような顔で言う友人。
だんだん悲しくなってきた。
「私は、ヒーローに殺されて『平和の為の犠牲者』と呼ばれるくらいなら、悪人に殺されて死ぬほうがましだと思う」
そう言い捨てて、高校の寮に帰るのだった。
「はぁ」
私は自分のベッドに倒れ込んだ。
高校生だし、まあいろいろと大変なんだ、でも友達にはちょっと言い過ぎちゃったかな、とメールを送ることにする。
「あれ、メールきてる」
新着メールがある、とタップして確認すると、ディックという人だった。
確か前にアドレス交換したっけな。と思い返しつつ読んでみる。
『明日は暇?だったら僕とお茶でもいかがですか』
「うわ、ナンパくさい」
彼は確か顔も整ってて、背が高くて紳士的だったはずだ。
親がウェインエンタープライズの社長っていう噂もある。
「なんでそんな人が私に」
でも、せっかく誘ってくれたし、危ない感じもしたけど失うものはほとんど無いから、行ってみることにした。
『はい、喜んで。どこで会いますか?』
「どうしよう、何着てこう」
私の服を5着ほど並べ、頭を捻って考える。
これもいいけど、こっちのほうが可愛いな……。
「別にデートじゃないし、こっちでいっか」
シンプルなワンピースを選んで、バッグと携帯を持って約束のカフェへ急いだ。
「ごめんなさい、待ちましたか?」
「いーや、今来たところ」
しまった、こんなにかっこいい人だったっけ。
今は、夜空に星が輝いている時間帯。
星みたいにキラキラした笑みに見とれそうになる。
ディックはアイスコーヒーをストローで吸い上げて飲み込んだ。
喉仏が上下する。思わずときめいてしまった。
「あ、座って」
私が立ち止まっていると、座るように促してくれた。
「あ、はい」
私はおずおずと座ると、ディックの方を見た。
ディックはメニューをこちらに差し出して、またも笑みを零した。
「すみません、アイスティーひとつ」
店員を呼び止め注文をする。
ちょっと緊張するな……ファンの人がいて嫉妬されたらどうしよう。
まあこんなかっこいい人とお茶出来ることなんてこれから一生ないと思うから、楽しもう。
「で、なんで呼んでくださったんですか?」
でも、突然呼び出されてお茶するって言うことが1番気になった。
ディックは少し口角を上げると、
「君が少し気になってた」
といった。
続けて、
「そして、ちょっと聞こえちゃったんだけど……」
と少しボリュームを下げて、
「ヒーローが嫌いってほんと?」
と聞いた。
少しきゅんとしたのが阿呆らしく思えてきた。
私はさっきより心が冷えたのを感じてこう返した。
「ええ、まあほんとです」
ディックは少し寂しそうな顔をすると、「そっか」と呟いた。
「あ、でも、バットマンとロビンは好きです」
少し暗くなってしまった雰囲気を挽回する為にそう言った。
バットマンとロビンは、好きまではいかないけど、嫌いではない。
「ほんと?」
少し目を細めてそういうディック。
もしかしてバットマン好きかな?
「うん、あの常人なのに頭でカバーして戦ってるところが好き」
アイスティーの氷を揺らしながら言う。
「そっか、じゃあナイトウィングは?」
ディックがそういう。
ナイトウィング?ってああ、あの最近出てきた。
「ナイトウィングも好きかな、かっこいいし」
ナイトウィングは確かあの……青年っぽい男の人だよね、多分。
ヒーローには詳しくないから良くは分からないけど……。
「そうなんだね」
ディックはまたもや目を薄めた。
でもどうしてそんな事聴くんだろう。
「ねえなんで」「あっ、ごめん用事」
私の疑問は、携帯を確認しているディックの声によって消された。
「ごめんね、これ代金」
何枚かのドル紙幣を置いて、走っていく。
「ばいばい、今度君の寮に行かせて!」
私の方を向いて、そう言い残して言ってしまった。
「何だったんだろう……」
たった数分の時間に起きた奇跡の余韻を、アイスコーヒーの氷が溶かしていった。
「あれ、ナイトウィングかな」
遠くに見える、銀行強盗と戦っている青と黒の男の人。
さっきの彼を思い出す。
「ナイトウィングがディックだったり……なーんてね」
そんなのぼせた妄想を、ディックの素敵な笑顔と一緒に星空に浮かべた。
嫌いだったヒーローも、ナイトウィングなら好きになれそうな気がした。
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