只の僕に出来ること

今日の天気は雨。ダミアンは傘を差しながら街中を歩いていた。

「んあ」

ダミアンは、路地裏で傘を差して呆然と立っている、自分と同じくらいの女の子を見つけた。

(何してんだろう)

興味本位で、近づいて声をかけてみることにした。

「おい、どうしたんだ」

そうすると女の子は肩を小さく揺らし、ダミアンの方を向いた。

長い前髪を顔に垂らしていたので表情は見えなかったが、何だか泣いているみたいだった。

「迷子か、なら俺が一緒に探してやるよ」

バットマンに正体を明かさないように口を酸っぱくして言われているので、ヒーローだからな、という言葉は飲み込んだ。

女の子は首を横に振って、ようやく話し出した。

「私、変なの」

ダミアンは、女の子の言葉の意味がよくわからず、「どういうことだ」と聞き返した。

「私ね、怪我しても痛くないの」

そう言って女の子は自分の頬に手を当てた。

その手は、青あざや生傷が沢山あった。

「何かされたのか?」

ダミアンは、もしかしてと思いそう尋ねた。

女の子は、両手を傘に戻すと、俯いて言った。

「お母さんとお父さんに」

それ以上はつっかえて言葉が出せない女の子。

やっぱり虐待だ。

そう思ってダミアンは、アルフレッドに連絡した。



「もしもしアルフレッド?」

「はい、何でしょう」

「1人女の子を入れてもいいか」

「どうしたんですか」

アルフレッドは驚いたようにそういうと、気を取り直してこう言った。

「別に構いませんが」

「ありがとう、1人女の子を保護した」

ダミアンが女の子を見ると、地面をじっとみつめていた。

「じゃあな」

適当に電話を切ると、女の子の手をとって、「ほら、俺んちに行くぞ」、と引っ張っていった。



「ついたぞ、ここが俺んちだ」

まさに豪邸というダミアンの家を見て、女の子は「うわあ……」と感嘆の声をあげた。

「シャワー浴びてこいよ」

と、ダミアンはバスルームまで案内する。

そしていろいろと説明したあとに、

「着替えは持ってきといてやるよ」

と女の子をバスルームに入らせた。

「アルフレッド!」

「はい」

アルフレッドは何時もの調子で答える。

「俺の着替え……いや、俺くらいの女の子の着替えを持ってきてくれ」

それと、バスルームに置いとけ。と付け足した。
ダミアンは自分の頭を掻き、ソファに乱暴に腰掛けた。

アルフレッドは、「かしこまりました」と、着替えを取りに行って、バスルームに置いてきてくれた。



「あ、あの……」

女の子がシャワーを浴び終わったようだ。

泥塗れだった髪や服が変わると、だいぶ印象が変わる。

みすぼらしかった彼女が少し綺麗になった。

相変わらず前髪が顔を隠していたが。

アルフレッドは、真っ白なワンピースを用意していた。

そこから覗く白い足、あざだらけの足。

痛々しくて、ダミアンは顔を伏せた。

「あー……髪乾かすか?」

ダミアンが顔を上げ自分の頭を指した。

女の子はタオルで髪の水分を拭き取りながら、「タオルがあるから大丈夫です」と答えた。

「やっぱりお前は虐待されてるのか」

女の子は俯き、タオルを強く握りしめた。

ダミアンは思わず彼女をだきしめて、後頭部を撫でた。

「服、濡れちゃうよ……」

「構わない」

女の子はびっくりするほど細かった。

ダミアンはしっかりと女の子を抱きながら言う。

「お前は今日から変わるんだ」






アルフレッドが手配した美容師。

女の子は少し緊張しながら椅子に座る。

「切りますよ……」

彼女の前髪にゆっくりとハサミが入れられていく。

長かった髪が床に落ちた。

「……!」

彼女はとても美しかった。

幼さの残る顔だが、目鼻立ちが整っていて、吸い込まれそうな緑色の瞳を持っていた。

ダミアンは息を飲んで、彼女に見入っていた。








「今日からお前は俺と同じ家に住む」

ダミアンは女の子に言った。

女の子は少し驚くと、眉を下げた。

「私には両親が居ます」

「でもお前を傷つけるだろ」

少し声を張ったダミアンに、女の子は目を固くつぶった。

「一緒にこい」

手を差し出すダミアン。

女の子はダミアンの手を握って、涙を流した。

「俺は、ダミアン。ダミアン・ウェインだ」

ダミアンは自己紹介をして、親指の腹で女の子の涙を拭った。

「私はエルヴィ・シューメイカー」

「今日からエルヴィ・ウェインになる」

そしてダミアンはエルヴィの手を引っ張り、自分の腕の中におさめた。

そしてエルヴィの唇を自分の唇と重ねた。

「ありがとう、ダミアン」

エルヴィは顔を赤くして、心から微笑んだ。

雨は上がり、雲の隙間から虹が覗いていた。

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