ふらふら、どきどき

「全くお前は」

「ははは、すみません……」

今日のミッション、ヴィラン退治。

調子に乗って突っ込んでいった私は、相手からナイフの雨を喰らい、全身ズタズタだ。

痛みを感じにくい身体だとはいえ、出血が多すぎると流石にふらふらする。

それでも攻撃を続けたおかげで、まあ倒せたのだが、途中意識が無い。目を覚ましたらロビンの背中にいた。

「ごめんなさい、もう歩けますから」

「ふーん、そう。じゃあ降ろすよ」

ロビンはしゃがみこむと、私が降りやすいように出来るだけ低くなった。

私はおぼつかない足を地面に降ろすと、ゆっくりと立ち上がった。

ロビンの背中は私の血でベタベタしている。

黒と赤のコスチュームで良かったな、なんて思いながら、ロビンに「ありがとう」と言った。

「いえいえ、じゃ、せいぜい遅れないでね」

皮肉たっぷりですたすたと歩いてしまう彼。

嫌われてるのかな、と少し不安になりながら彼のあとを追う。

怪我をしているが、少し痛いくらいで、いつもの速さで歩みを進める。

その間、ロビンとの距離は変わらない。

あれ、おかしいな。
もしかして、私に合わせてゆっくり歩いてくれてる……?

そんな考えが脳裏に浮かんで、お湯が湧いたみたいに顔を紅くした。

いつの間にか足が止まり、その場にしゃがみこんでしまった。

「……エルヴィ、立てるか」

足音が聞こえなくなったからか、ロビンも立ち止まり、私の方を見ていた。

「だ、大丈夫、先に行ってていいよ」

心臓が跳ね上がって止まらない。

ほっぺに手の甲を当てて冷まそうとするが、手の甲を温めるだけの結果となった。

自分の足の間から見える地面とにらめっこしていたら、ロビンがこっちに近づいて来た。

「歩けないんなら無理するな」

そういって、私の肩と足に手を回し、私を抱えあげた。

私は、ひょい、と彼の腕の中におさめられた。

「ろ、ロビン」

ふらふらするのとどきどきするので目の前が白黒する。

ロビンは私をじっと見つめながら、「全く、君はいつも無茶ばっかり」と眉を下げた。

マスク越しで見えないが、すっと通った鼻筋と、形のいい唇、整った輪郭から、美少年という事がうかがえる。

「ま、こうして君は僕の腕の中にいる訳だから、これからは無茶させないよ」

そういって彼の唇は弧を描いた。

私は、もう彼の顔を見るのが耐えられず、顔を手で覆った。

「ロビン、早くして、死んじゃう」

こぼれた言葉は、ふらふらで死ぬのかどきどきで死ぬのか、という2つを意味していた。

「分かりました、姫」

ふふ、と笑いながらロビンは冗談を言った。

姫って、……もう、何処まで私を惑わせれば気が済むの!

ロビンの気持ちが知りたくて、彼の胸に顔をうずめてみた。

「…エルヴィ?おーいどうした」

呼びかけられても彼に寄り掛かったままで。

ロビンの匂いを肺に吸い込んで、ゆっくりと目を閉じる。

少し眠気を感じて、強ばっていた筋肉を緩める。

「……ほんとに死んだ?」

少し慌てて私に問いかける彼が少し面白くて、ぷす、と笑声をこぼすと、彼は「なんだよ、紛らわしい」とため息を吐いた。

「でも、ほんとに死んじゃうかも」

このまま時間が止まればいいのに。

眠りに入る前にもう1度彼の匂いを嗅いだ。

いい夢を見られるといいな、意識がツマミを捻るみたいに段々落ちていく。

「これからは僕がエルヴィを守るから、絶対に死なせない」

この言葉が夢だったかどうかは分からなかったけど、これからはロビンを頼って良いのかな。

無茶しないで、今度は自分で歩いて帰ろう、私はそう思ったのだった。

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