honey

「いっ……つ」

「ご、ごめんなさい」

負傷したフラッシュさんの治療中。

なるべく傷口を刺激しないようにしているつもりだが、緊張のためか少し当たってしまう。

こんなスーパーヒーローが近くにいて緊張しないわけが無い。

でもまあ、今はコスチュームじゃなくて、ラフな格好だ。

コスチュームはボロボロでもう使えないだろう。

フラッシュさんに悟られないように、緊張を解すために深呼吸し、ガーゼや包帯を取り出す。

ガーゼを傷口に当てて、上から包帯を巻く。

案外傷口が広いなぁ。
気をつけて巻かないと。

余りにも表情が固かったのか、フラッシュさんは私の顔をのぞき込んだ。

フラッシュさんが視界の半分弱を占める。

「ね、エルヴィちゃんって何処の学校行ってるんだっけ?」

突然近くなった距離に少し驚き、包帯を巻く手に力が入る。

「うっ」

「ああっ、フラッシュさんごめんなさい」

馬鹿、私は治療するのが仕事なのに痛がらせてどうするの。

自責の念に駆られしょんぼりしながら包帯を緩めていると、フラッシュさんがふっと吹き出した。

「はは、っヒーロー名にさん付け?ふふふ」

笑うフラッシュさん。楽しそうにたわむ目元は、きらきらと蒼く輝いている。

私もつられて口端をあげた。

「バリーでいいよ、エルヴィちゃん」

語尾に音符でも付きそうな程明るい口調で言った彼は、自分の傷口をさらりと撫で、私の手に触れた。

そして私の目を見つめると、さっきとは違う優しい笑みを浮かべ語りかけた。

「そんな怖がらないで、話しようよ」

私の心臓が一瞬はねて、感情が昂り過ぎて少し泣きそうになる。

「は、はい、バリーさん」

涙目じゃ無ければいいな、とバリーさんの目を直で見られないまま頬を染める。

「さんも付けなくていいよ、僕もエルヴィって呼ぶから」

「バリー……」

触れ合った手を、バリーは両手で優しく握った。

包帯はくるくると落下して、空中で静止した。

蒼眼の瞼が降りる時、魔法が解けたように、私は包帯を巻き始めた。

「ごめんなさい……」

恥ずかしすぎてとてもあのままではいられない。

手際良く巻き、直ぐに結び目を作って終わらせた。

「エルヴィー……?」

バリーが私の髪に指を通し、撫で付けた。

私はびっくりしてバリーの方を見た。

「やっと、目、見てくれた」

バリーはそのまま私のフェイスラインをなぞり、くいっと顎を持ち上げた。

「エルヴィ、あのさ」

私を呼ぶと、顔を更に近づけた。

バリーの匂いが鼻まで届く。

男の人、っていう匂い。

目をたじろがせるが、バリーの綺麗な髪、ガラスの目、高い鼻、ふっくらとした唇が、視界の全てを覆う。

「バリー……あの」

顔が熱い。全身の血が頭に行っているのがわかる。

心臓が早鐘を打つ。

バリーまで聞こえてしまいそうなほど五月蝿い。

「エルヴィ、僕……さ、めちゃくちゃドキドキしてる」

私の顔から手を外し、私を抱き締めた。

バリーの胸元に押し付けられ、耳を澄ます。

「ほら、聴こえる?」

バリーの心臓も、私と同じくらい跳ねていた。

何だかそれが愛しくて、優しく彼の背中に手を回した。

「エルヴィ」

「バリー」

私達は名前を呼びあって、静かに唇を重ね……。


「おい、フラッシュ」
急にドアが開いた。

「あっ」

「うわっ」

バットマンだ。

「いま何をしようとした?」

ボイスチェンジャーのかかった声は、私たちを怒ろうとしているのかな。

バリーはへらっと笑い、したり顔で言う。

「こういうこと!」

「きゃ」

ぐいと引っ張られ、キスをされた。

柔らかい唇の感触に、私の気持ちは高揚した。

バットマンはやれやれ、と部屋を後にした。

「どうだった?」

バリーは椅子に座り直し、前のめりになって私の顔を見た。

「バリーっ……恥ずかしかったです」

私は顔を手で覆い、立ち上がってドアへと走り出した。

「おっと」

するとバリーがすぐさま移動し、ドアの前に立ち塞がった。

にやと笑い、そして耳元で囁いた。

「逃がさないよ、ハニー」

私は言いようのないときめきに心を躍らせ、彼から2度目のキスを受けた。

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