おばけになっても

高層ビルの窓。

がら空きで空気の通る、私だけがいる会議室。

コーヒーをマグカップに入れて、息を吹きかけて冷ましながら少しずつ飲む。

あまりホットを飲まない私は熱いのが苦手だ。

「ふぅ、ふー」

窓の方に近寄って、ビル立ち並ぶ街並みを見る。

敵対する会社や人々の住むマンション。みんな平等に地面に並んでいる。

私たちの会社は、だんだんと大きくなり、ついこの間引っ越したばかり。

「世界が平和になればいいのに」

そんなヒッピーみたいな言葉を口にする。

緩やかに口角を上げて夕焼けに浸っていた。

この時、部屋に誰かが入ってくるなんて考えて居なかった。

空いた窓から身を乗り出すように風を浴びていた私の背後に忍び寄る影。

血のように真っ赤に染まる夕焼けが妙に不気味で。

グッとマグカップを傾け、コーヒーを飲もうとした私の背中を強く押した、誰かが。

私の目の前に見えたギラリと光る高層ビルの硝子共があざ笑うかのように目を紅く光らせて嗤う。

空中にコーヒーが飛散して玉のような雫になって私と共に降下する。

「助けて」

声に出せない、微かな悲鳴。

いつか、私の目の前に現れた赤い少年。

『安心しろ、助けるから』

私が不思議な魚に襲われた時、彼はそういってニヤリと笑ったっけ。

名前は、確かスピーディだったかな。

すごく素敵だった。

あの時は多分、惚れてたんだと思う。

話は変わる。

私が突き落とされた理由は、多分私の作った薬のせい。

この薬を飲むと、スーパーパワーがつく。

しかし一定時間しかパワーは続かず、中毒性もヘロイン程に高い。

無理やり人の潜在能力からスーパーパワーを出すので、寿命が縮む。

脱法ドラッグの様なものなのだ。私の薬は。

私はこの薬をいつも持ち歩いている。誰かに盗られない為に。

素早く取り出して飲み込む。

これで世界のためになるならと、残り少ない時間で思う。

急に変化が起きた。

身体が内側から焼けるように熱い。

そして視野がだんだんと広がってゆく。

下を向いて落ちているはずなのに、赤い夕暮れの空がくっきりと見える。

髪が風で靡く。地面が近づく。

やっぱり、死ぬのは怖いものだな。




私は地面に叩きつけられて粉々になった。

赤い飛沫がそこら中に飛び散り通行人の目を引く。

「死んだのに」

私は自分の死体を見ていた。

どうやら私は死んだみたいだ。

幽霊とはほんとにいるものなのか。

私はふわりと浮き上がって上から事を見ていた。

私の薬は全て飲み込めていたみたいで安心した。

「後ろ通るぞ」
「退いて」

2人の男の子。

「あ、」

喉奥から声が漏れる。

あれは。あの、あの時の少年。

「ちょっと……うわぁ」

小さい女の子が空を飛んでいる。

その子は私のグロテスクな死体を見て引いていた。

「この人は……えっと、誰?」

髪の長い青いコスチュームを着た男の人が言うと、スピーディが答える。

「エルヴィだよ、あの薬の」

少し悔しそうにそう言うと、私の死体に近寄った。

不思議と感情はあまり沸かず、精神だけ肉体に置いてきてしまったみたいだった。

ほんとに好きだったのかな、私。

「犯人を追いかけよう」

小さい女の子がいう。

ふたりはそれに続き走っていった。

「私も追いかけようかしら」

私はそう思い立ち、彼らの後をついて行った。

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