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奴が連れて来たのはなんの変哲もない男だった。


見た瞬間に分かった。
こいつも、俺と同じ"被害者"だ。


そしてきっと俺と同じように―――奴に、絆されるんだろう、と。







繋がりとは奇妙なもの








噂に疎く、尚且つそういう噂の話題に上る人物に興味がない西園寺がなぜ蔵のことは知っていたかと言うと、一度彼の"仕事現場"にたまたま居合わせたからである。

この学園の風紀委員が指名制での任命、頭脳や身体能力共に優れた少数精鋭のエリートと言うのは聞いていたが、話を聞くのと実際目にするのとでは全く違う。
嫌がる小柄な生徒に周りの目も気にせず絡んでいた柄の悪い奴らが、風紀委員の腕章を付けた蔵を目にした途端に青くなっていたのは壮観だった。
それでも往生際悪く処罰を免れようと逃亡を図ったその生徒らを、蔵はあっという間に押さえつけて見せたのである。顔色一つ変えずに抵抗する相手の腕を後ろに捻り上げる様に西園寺はぞっとして、あの人だけには何があっても逆らうまいと誓ったのだ。

そんな人物が今自分の方――正確には自分たちの方を見ている。西園寺は知らず背中に冷や汗をかいた。
ピンク色をした男がいったいあの中の誰を探していたのかは知らないが、こんな歩く服装規定違反みたいな人物が大声を上げていればどう考えても風紀副委員長のお怒りにふれてしまうに違いない、と西園寺は顔をひきつらせた。


「やあ諸君、鍛錬御苦労だね」


ピンク男は西園寺の心配など露知らず、何が愉快なのかわはははと笑いながら剣道部の集団に労いの言葉を放つ。
ちらりと盗み見た蔵の眉間にしわが寄っていることに気づいて、西園寺は今すぐこの場から逃げ出したくなった。
しかし、直後西園寺はより強い衝撃を受けることになる。
ピンク男が、ずかずかと蔵に歩み寄り、その首のタオルをするっと奪い取ったのである。そしてあろうことか、くるくるとそれを数回指先で振り回してぽいっと投げ捨てたのだ。
無残に地面に着地したタオルを視線で追ってから、西園寺は唖然とした。


「ふふふ」


険しい表情の蔵の前で、ピンクの男は可笑しそうに笑った。何が楽しいのかと西園寺は泣きたくなった。
逃れようにも男に手首をがっちり掴まれたままなので叶わない。と言うより、今蔵の目の前で逃げることの方が逆に怪しいような気がしたので踏みとどまっているまでだ。

ピンク男はそれはそれは嬉しそうに楽しそうに、蔵の肩にぽんと手を置いた。


「喜びたまえ!」


妙に演技がかったような仕草で、男は高らかにそう言った。
そして、成り行きを見守っていた西園寺を蔵の前にずいと押し出した。急なことに、西園寺はたたらを踏みながらよろよろと踊り出る。
ぱちり、と西園寺は蔵と目が合って動けなくなる。


「―――新しい仲間だよ、クララ!」


ふふふ、とまた笑ったピンク男のウサ耳がぴょこぴょこ揺れる。
男の言った言葉がわからなくて、よく理解できなくて、西園寺はただただ目の前の黒い眸から目を逸らせないでいる。
ひとつ瞬いた後、一瞬その瞳が同情を含んだ色を見せたような気がした。

とりあえず、だ。



「――クララ……?」




なんだ、それは。

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