▼ 月と魔法使い6
「それは事実ではない、私達はそんなことをしていない!」
激しい雨の降る日だった。アイゼンシュミット家の者たちはクラインシュタイン家に呼び出され、国王の城へ赴いていた。その先でつきつけられたのが、アイゼンシュミット家の魔法の卑劣さを謳う報告書である。それによれば『アイゼンシュミット家は人を殺し生気をすべて奪って魔術を使っている。殺害した者に関わる全ての人の記憶を操作するため、その事実は知られることはなかった』とのことだった。しかし、アイゼンシュミット家ではそんなことを一切していない。まぎれもない、それは冤罪だった。
しかし、どんなに潔白を証明しても、身に覚えがない「証拠」をつきつけられて言い分を聞き入れてもらうことができなかった。
実のところ、国王はアイゼンシュミット家が魔術師としての権威を手に入れることをよく思っていなかった。王家であるクラインシュタイン家こそが魔術師としてもトップにたつべきだと、そう思っていた。そのため、アイゼンシュミット家の「罪」をありとあらゆる権力を行使してでっちあげ、こうしてつきつけたのである。
アイゼンシュミット家は魔術師のなかでは名を知らしめていたが、一般の民にはそうではなかった。魔術師のことをよく知りもしない国民はこの話が広まると、国王の側に疑いもせずに味方し、アイゼンシュミット家を「悪魔の使い」と呼んで畏れ、煙たがった。
そして、そのときが訪れる。アイゼンシュミット家への非難が盛り上がった――その年の秋。アイゼンシュミット家の死刑が決定したのだった。
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