▼ 月と魔法使い4
「カイー!」
ある日の夕方、ヘラが帰宅するなり嬉しそうにカイに駆け寄ってきた。
「これ、あげる!」
「なに? これ」
「彼氏のおばあちゃん、カイの教えてくれた魔法のおかげで脚治ったから旅行にいったんだって。そのおみやげ! 彼氏ね、すごく嬉しそうにしていたよ、カイのおかげ!」
カイはヘラからおみやげをうけとると、中身を確認する。中にはクッキーが入っていて、包装紙の隙間から甘く香ばしい匂いがこぼれてきていた。クッキーをもらえたことも素直に嬉しかったが、なによりも姉のきらきらとした笑顔をみれたことが嬉しくて、カイも笑う。
「すごいのよ、私の彼氏、本当に喜んでいて! 『奇跡ってあるんだね』って、泣きながら言っていて! 医者にみせても全然治らなくて、おばあちゃんも歩くことはもう、諦めていたんだって!」
「お、おおげさだよ……」
「大袈裟なんかじゃないわ、カイ、貴方の魔法はすごいのよ! カイはなんだかいつも自分の魔法に自信がないみたいだけど……貴方の手は奇跡を叶えるの、人を喜ばせることができるの! 自信をもって、貴方は素晴らしい魔法使いなのよ!」
カイの手を握り、ヘラが言う。
「奇跡……」
眩しいほどのヘラの笑顔をみつめ、カイは森で出逢った親子のことも思い出していた。自分の小さな手から生み出した奇跡。それは決して大きなものではないが必ず誰かの喜びにつながる。アイゼンシュミット家に生まれて約10年、カイはそこでようやくアイゼンシュミット家の魔法を理解しようと志したのだった。
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