アリスドラッグ | ナノ


▼ 月と魔法使い2



「うーん」



 リビングで頭を抱えているのは姉・ヘラ。飲み物を飲むために目の前に座ったカイにも気付かないくらいに何かに夢中になっているようである。カイが何気無くヘラの前に並んだ本をみてみると、それは西洋医学書、東洋医学書、そして魔術書だった。ノートにはぐちゃぐちゃと文字や線がひいてある。



「姉さん」

「わっ……! カイ、いつの間にそこに! びっくりしたぁ……!」

「何やってるの」

「彼氏のおばあさん、脚悪くして歩けなくなっちゃったんだって。だから魔法で治せないかなぁって。でも私、治癒魔法とか全然わからないから難しくて」



 ヘラはカイとは歳が少し離れていて、18歳になる。2年間付き合った彼氏がいて、毎日幸せそうだった。

 治癒魔法とはまた利益にもならないものを……とカイは冷ややかにヘラをみつめる。医者に任せればいいじゃないか……もっとも、医者に治せなかったのかもしれないが。医者だったら高額の利益を得ることができる治療も、魔法使いはほぼ無償でやってしまう。……とは思ったが、姉がやりたいと言っているなら仕方ない。カイはいつも優しくしてくれるヘラのことが大好きだったし、ヘラが恋人を本当に愛しているということも知っている。



「……姉さん、」



 カイは立ち上がり、ヘラがペンでぐちゃぐちゃにしたノートを覗き見した。そして、しばらくそれをながめると、ヘラからペンを借りて、ノートに魔術式を付け足してやる。ヘラはハッと驚いたような顔でカイをみて、肩を掴んだ。



「あっ……すごい、カイ! これで治癒魔法できる……! 流石だね、カイってすごい」

「いや……べつに」



 カイはアイゼンシュミット家の歴史の中でも稀にみる天才だと言われていた。まだ齢10に満たないにも関わらず、誰よりも魔術師として優れていた。

 カイは天才故に、魔術を持て余していた。治癒なんて地味な魔術よりも、強い魔術を使いたい。物語のヒーローだって、華やかな魔術を使って悪役を倒していく。カイの頭はそれが可能なのに、アイゼンシュミット家の「自分の生気を使う魔法」ではそれが難しい。

 せっかく魔術が使える家系に生まれたのに、これじゃあつまらないな、カイは常にそんなことを考えていた。


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