アリスドラッグ | ナノ


▼ 月と魔法使い1





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 十数年前――アイゼンシュミット家。決して大きいとは言えない住まい、小さな部屋にずらりと並ぶ大量の本。祖父、父母、子供二人の五人家族。「魔法使い」として名を知らしめていたクラインシュタイン家と同格と言われる魔法使いのその家は、いつも穏やかな時間をすごしていた。



「おじいさま、納得がいきません」



 年老いた男・ヨルクに話しかけているのは、まだ年端もいかない少年だった。その手には小さな体に似つかわない分厚くて大きな本が抱えられており、少年はその本をみせつけるようにして静かに言った。



「どうかんがえてもアイゼンシュミット家の魔術は効率が悪いです。全然強い魔術が使えない。クラインシュタイン家の魔術を見習ったほうがいいのでは?」

「いいかい、カイ……魔法使いは誰かのために魔法を使うんだ。相手が違うなら、使う魔法も変わってくる。クラインシュタイン家の魔術は「国を守る」魔術。そして私達の魔法は……「人を守る」魔法。大きな力なんて必要ない……だから、私達の魔法はこれでいいんだよ」

「……絶対強いほうがいいに決まっているじゃないですか。魔術師として一番になりたいとは思わないんですか」

「それは……カイがもう少し大きくなったらわかるだろうね」



 少年――カイは、アイゼンシュミット家の「魔法」に納得がいかないようだった。ヨルクの言葉を聞いても眉を潜ませて唸っているだけである。

 アイゼンシュミット家の魔法――それは、自分の生気を糧にして魔法をつかうというものだった。つまり、足りなくなれば他人から補給すればいいクラインシュタイン家の魔術と違い、自分の寿命の分しかつかうことができないのである。自分の命を犠牲にし、特に特別な魔術を使えるというわけでもない……そんなアイゼンシュミット家の魔法は、そのときのカイには理解しがたいものであった。



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