▼ 熱
着替えて、寝室で一人横になっていた椛は、カイのことで頭がいっぱいだった。
「どんな奇跡でも叶えてみせましょう」そう言って椛の前に現れたカイ。奇跡なんて、魔法なんて、絶対にありえないとそう思っていた椛に、「奇跡は存在する」と教えてくれたのは、彼だった。誰だって幸せになれるのだと教えてくれた。
それなのに、カイは「悪い魔法使い」だった。本人も否定しなかった。
今まで一緒にすごしてきた時間はなんだったのか、今までカイが自分にみせてくれた笑顔はなんだったのか。……すべて、自分を騙すためのもの?
シルヴィオが魔術は人の生気を糧にすると言っていた。もしかしたら、カイは――椛の生気を奪い取ることが目的だったのか。幸福を提供し、椛の信頼を得て、近づいて……
「……絶対に、嘘」
違う、絶対にありえない、カイはそんなことをしない。そう思いたいのに、本人が肯定してしまえばそうはいかない。それに、美しい魔法ばかり使うのかと思えば、カイも命を奪うような恐ろしい魔法を使うこともできたのだ。自分を守るためとはいえ、魔物たちを殺したあの魔法を見た時は、椛は正直なところ驚いてしまった。
本当に、カイは、ただ……
「……僕は、騙されていたの……?」
ぽろ、と一滴の涙が椛の頬をころがった。
「……シンデレラ?」
控えめなノックと共に、ジークフリートが入ってきた。怪我という怪我もなく、無事に戻ってきたことに、椛は安心する。
「体調は……大丈夫か?」
「……はい」
ゆっくりと近づいてきてベッドに座ったジークフリートは、椛の頭をそっとなでた。そのぬくもりに、椛の瞳からは次々と涙が溢れてしまう。縋りつくようにジークフリートに手を伸ばし、服の裾をひっぱると、ジークフリートは悲しそうな目で椛を見つめた。
「……ごめんな、……シンデレラを守れなくて」
「……いいえ……僕がぼーっとしていたせいです」
「怖かっただろ?」
ジークフリートは布団に入ると椛を抱きしめ、何度も「ごめん」と言った。あの時の恐怖、そしてカイへの疑心、様々なものが織り交ざって、椛は声をあげて泣き続けた。
その日、空は曇りだった。雲が星を覆い、月を喰い、真っ暗な闇が夜を支配していた。カーテンの隙間から差し込んでくる光は、人工の光のみだった。
「……シンデレラ? 熱、あるのか?」
「……え」
薄暗い部屋の中、ジークフリートが椛の顔を覗きこむ。頬をほんのりと紅潮させ、息が荒い。
実は、あの魔物から開放された後も、椛の体から熱は逃げていなかった。あの時の異常な「欲」がまだ残っていた。あのような気味の悪い化物に体を弄られて、そしてまだ欲情している自分はどう考えてもおかしいと、そう思っていた椛はできるだけジークフリートに悟られないようにしていた。しかし、表にその症状はでてしまっていたらしい。
引かれる。そう思った椛は、さっと血の気が引くのを覚え、ジークフリートに背を向ける。
「だ、大丈夫です。ちょっと疲れてしまったので、もう寝ますね……」
「……シンデレラ? 本当に大丈夫か? 水持ってくるか?」
「……ッあ!」
ジークフリートの手が肩に置かれた瞬間、思わず椛は声を出してしまった。体を軽く揺すられたせいで、自分の手が敏感な部分を掠めてしまったのだ。椛は慌てて手で口を塞いだが、ジークフリートにはあっさりと悟られてしまったようだ。
「……まだ、残っているのか?」
「……え?」
「……あそこにいた魔物は、淫魔だ。注がれた魔力……まだ、体に残っているんだろう」
「……ッ」
かあっと顔が紅くなったのが、自分でもわかった。一人で欲情してしまったということを悟られて、恥ずかしかった。椛が黙って俯いていると、ジークフリートが耳元で囁く。
「……ずっと残しておくときっと辛い。抜いてやるよ」
「へっ……!? あ、ちょ……!」
「動かなくていい。俺がやってやる」
「あ……、待っ……、ぁあッ……!」
後ろから抱きかかえるようにして、ジークフリートが椛のシャツに下から手をいれてきた。そして、シャツの中で乳首を摘み上げ、揉むように刺激する。すでにふくれたそこは敏感になっていて、くり、と指をすりあわせられる度に甘い電流を下腹部へ送り込んだ。椛はジークフリートの指の動きにあわせてビクビクと身体を跳ねさせ、恥ずかしさからくぐもった声を出し続ける。
「や、……あ、ん……ッ、」
「声、我慢しなくていい」
「やだ、恥ずかし……」
「……じゃあ、噛んでろ」
声を出さまいと唇をぎゅっと閉ざす椛を案じてか、ジークフリートは椛のシャツをめくりあげ、それを口までもってきた。椛は自らの胸をさらけだすような格好に恥じらいを覚えたが、素直にそれに従う。ぱくりと唇でシャツを噛んで、そうすれば必然的に顔が下を向いてしまう。くにくにと弄られている真っ最中の乳首が視界に飛び込んできて、さらに身体のなかの熱はたかまっていった。
「ふ、……ん、ん……ッ、く……ぅ……ん」
「シンデレラ……」
「んんっ……」
耳を舐められ、ゾクゾクと身体が震える。低い声で名前を囁かれると頭のなかが犯されたような心地だった。敏感になった乳首と、頭のなかへの刺激。どんどん下腹部へ熱が溜まっていって、脚がもじもじと動いてしまう。身体をくねらせて快楽を和らげようとするも、ジークフリートが身体をしっかりと抑えこみそれを許してくれない。
「んーっ……んーッ……!」
暫くの間、断続的にそうして刺激を与え続け、椛が達するのには時間がかからなかった。びくん、と大きく身体を跳ねさせて、椛は乳首を弄られただけでイッてしまったのだった。
「は……は……」
「ほかに……どこ触って欲しい?」
「……っ」
ぎゅっと身体を強ばらせて顔を赤らめたままでいる椛に、ジークフリートは問う。椛がまだ欲求が解消されていないことを察したのだろう。
どこ、と言われてもその場所は決まっていた。疼いて疼いて仕方のないところ異物を挿れられてその違和感が未だに拭えていない、そこ。あまりにも直接的な質問に椛は羞恥を覚えて答えることができなかった。椛が応えられない、という風にぷるぷると首を振るが、ジークフリートは諭すように優しい口調で言う。
「大丈夫、恥ずかしくない。言ってみろ。そこ、いっぱい触ってやる」
「……っ、」
「シンデレラ……」
「……あ、そこ」
「ん?」
「下の、ほう」
「下?」
「……おしりの、なか」
ぶわっと顔に火がついたように熱くなった。なんてはしたないことを自分は言っているのだろう、恥ずかしくて恥ずかしくて、椛は枕に顔を埋めてしまった。しかし、間髪いれずに後孔を撫でられて、身体をびくりの仰け反らせて甲高い声をあげてしまう。
「ひ、ぁあっ……!」
アナルの皺のひとつひとつをなぞるようにゆっくりと撫でられて、ゾワゾワと全身の肌が粟立った。もう片方の手でぐいっと尻たぶを持ち上げられて、しっかりとそこをさらけ出されながら触られると、ほんのすこしの刺激でも敏感に反応してしまう。声を出さないように、出さないように……そう思っていたのに、そこを触れると我慢ができない。ため息のような甘い声が、次々と唇からこぼれ落ちてゆく。
「ふ、ぁああ……ひゃ、ぁ……」
「ここもか」
「はい……あぁあ……ん」
指はすうっとペニスの方へ滑っていき、会陰部を往復し始めた。中にある前立腺を刺激するようにぐりぐりと強く指は動かされ、じゅわっと熱が生まれ出る。ぐ、ぐ、と身体が揺さぶられるほどに力強く指の腹で刺激され、椛の下半身はすっかり力がぬけてヘロヘロになってしまった。気持ちよすぎて、力がはいらない。
「はぁあ……ん、ふ、ああぁ……」
無意識に手に持っていった自らの指が、唾液で濡れていた。椛はだらしなく開いてしまった口を塞ぐように指を咥え、刺激に耐える。じりじりと下腹部で蠢く熱で、何も考えられなくなってくる。
「あ、ぅ……じー、く……い、っちゃうぅ……」
「いいよ、イッて」
「あ、ふ、ぁああぁあー……っ」
先ほどイッたばかりだというのに、またもや椛はすぐに絶頂を迎えてしまった。しかし、まだ射精はしていなかった。ドライでイッてしまったそこはまだ熱をもっている。ぴくぴくと小さく痙攣する身体は、さらなる刺激を欲している。
「さ……次、なかだな」
「は、あぁあ……ん」
指が中にはいってきて……いとも簡単に根元まで咥えてしまった。すっかりそこが柔らかくなっている。ほぐす必要がないと気付いたジークフリートは、一気に指を三本いれはじめた。
「あ、ふ……」
指三本すら、美味しそうにそこは飲み込んでしまう。ぐちゅぐちゅと激しく出し入れをされても椛は痛くなかった。乳首を引っ張られながらそうしてアナルを弄られるのは、おかしくなってしまいそうなくらいに気持ちよかった。
「あぁあ、きもち、ひぃ……そこ、ぉ……やぁ、ん……」
腰をかくかくと揺らしながら椛は悶える。前立腺をごりごりとさすられながらピストンされると、たまらなく良かった。身体は熱に支配され、何度も何度も絶頂を迎えてしまう。
なかをぐちゃぐちゃにいじめられると、何回でもイくことができた。ペニスから先走りをこぼしながら、椛は迫り来る絶頂の波に幾度も溺れて行く。足りない、もっともっと、狂ってしまうくらいにイきたい……
「はぁっ……! ぁあっ……!」
身体の限界が来ても、椛は腰を揺らしながらジークフリートにお願いを続けた。触り続けてほしい……まだ終われない。
指が唾液でべたべたになるくらいに理性はすっかり飛んでいて、椛の意識は朦朧とし始めていた。快楽に浮かされ口元にへらっと笑みを浮かべながらまた絶頂に達して……椛はとうとう気を失ってしまった。
すうっと椛の目が閉じられるのを確認すると、ジークフリートは芯をもったままの椛のものを握り、しごいてやる。寝ているというのにびくびくと震える身体は、本当はもっと欲していたに違いない。しかし、やがて精液をだしてやると、荒かった椛の呼吸も大分落ち着いてきた。
「ぁ……」
ジークフリートは軽く椛の汚れた身体を拭いてやり、その顔を覗き込む。よくよく見てみると泣いたあとのように目元が腫れていて、行為を始める前に泣いたのだということがなんとなくわかった。
「……」
原因は、想像がついた。ジークフリートは少し考えたようにじっと椛をみつめ……しかしすでに夜は深まっている。自らも布団を被り、眠りに就いた。
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